第五話 爆誕サイクロプス
「サイクロプスなのです!?」
リックが行った魔物合成で、
Aランクのサイクロプスが爆誕した。
「うわーデカイ、サイクロプスって結構強い魔物だよね」
「結構じゃないのです! AランクなのですよAランク! できたてのダンジョンに居ていいレベルの魔物じゃないのです! GランクとGランクを合成してAランクってありえるのですか!?」
「うーん、僕が見た本でも、ユーリの言った通りGランク同士の合成ではDランクになるのが限界だって書いてあったけど、どういうことなんだろう」
「ご主人様、初めて合成したのですよね……なおさら意味が分からないのです」
「あ、でもちょっと待って、このダンジョンで生まれた魔物はダンジョンマスターに絶対服従って言ってたけどさ。この場合どうなるの?」
「どうなるって……あ」
リックは一回、合成したら絶対服従が解けてしまうのではないかと懸念があったので聞いてみたら、
ユーリの顔がみるみる青くなっていく。
「え? もしかして解けちゃうの?」
「い、いや、どうでしょうか。分からないのです。解けるのか解けないか、どうなのでしょう……考えてなかったのです……」
「え、ええ、そんな……もし解けてたら……」
解けていたらはっきり言って即死である。
リックは恐る恐るサイクロプスを見上げる。
一歩も動かず仁王立ちしているが、
何だかそれが逆に恐ろしかった。
「め、命令してみるのです……!」
「う、うん! サイクロプス! 座って!」
リックがそう言った瞬間、
サイクロプスが大きな体を動かして、胡坐をかいて座った。
「ほ……よかったのです」
「う、うんうん」
心底ほっとしたという様子の二人、
「しかしGとGを合成してAランクを生み出すとは……ご主人様には何か特別なスキルがあるのですか?」
「え? うーん、特に無い気がするけど……あーでも調合なんかで、何かを作ったときは普通より効力が高くなることはあった気がする」
「それなのです! 恐らくご主人様には何かを混ぜ合わせて作ったら、普通よりいい物作れるスキルがあるのです! さすがなのですご主人様! かっこいいのです!」
「スキル……僕にスキルがあったとは……」
スキルを調べる方法はあるにはあるが、知っている人間はいなかった。
その為、スキルがあることに気付いている人間はかなり少なかった。
今までリックは、普通よりも効果のある調合をした事はあるが、今回の合成のように常識はずれというレベルで効果が高まった事はなかったので、自分には調合のセンスがあるかも? と思っていたが、スキルがあるとは思っていなかった。
「このサイクロプスちゃんを使えるとなると非常に楽になるのです。出来立てのこのダンジョンのランクはG、強い冒険者は相手にせず弱いのばかりがやってくるはずなので、サイクロプスちゃんを部屋に立たせておけば最初のうちは楽勝でDP稼ぎが出来るのです!」
ユーリは興奮した様子でそう言った。
リックとしても錬金術の研究をするためDPが溜まる事はいい事だと思っていた。
「そう言えば、まだこのダンジョンの内部構造を知らなかったけど、どんな感じになってるの?」
「えーと、この部屋を含めて全部で二階しかないのです。上階が突破されたらすぐこの部屋なのです。複雑な地形も無く単純な構造で、現時点ではダンジョンというよりただの地下に作られた家なのです」
「このサイクロプスは、その上の階に置けばいいのかな」
「そうなのです」
「どうやって置くの?」
サイクロプスの巨体を上階に運ぶのは現在の状況では無理だが、
リックは何か置く方法があるのかと思い尋ねた。
「ちょっと待つのです。ダンジョンマスター必須の三つのアイテムを取り出すのです」
そう言ってユーリは、
パンっと三回手を叩いた。
すると目の前に、
水晶玉が乗った台と、白い光を放つ円台と、白い紙の束が現れた。
「これは?」
「この水晶玉は『監視玉(かんしだま)』この部屋以外の階の様子を見ることができる水晶玉なのです。。この光ってるのは『ワープ台(1)』一階へ魔物をワープさせることができる台なのです。階が増えるとこの台も増えるのです。この紙の束は『通信紙』、一枚取って魔物の血液を染み込ませると、その魔物へ命令を遠くからでも送れるようになるのです」
「そんなものが」
「さっそく使ってみるのです。まずはこの通信紙を使えるようにするのです。まずサイクロプスちゃんに自分に軽い傷をつけるよう命令してみるのです。さっき使った包丁じゃたぶん傷つかないと思うのです」
リックはサイクロプスに自分の足に傷をつけるように命令する。
足首辺りを軽く爪で切り、小さな傷が出来て、血が少し流れる。
リックは紙を一枚手に取り、血を染み込ませた。
「これでいい?」
「はい完璧なのです! それはここで使っても意味は無いので、先にサイクロプスちゃんをワープ台で一階に送るのです」
「これ大き過ぎて乗れないんじゃ?」
ワープ台は人間一人が乗れる程度の大きさで。
とてもサイクロプスが乗れる大きさじゃなかった。
「乗らなくても上の方に居ればいいのです!」
「そうなんだ」
リックはサイクロプスにワープ台がある場所に移動するよう命令する。
サイクロプスが移動して数秒後、ピカッと発光したかと思うと、
サイクロプスの姿は跡形も無く消えていた。
「これで1階に行ったのです! 監視玉(かんしだま)を見るのです!」
リックは監視玉を覗き込む。
「おお、見える見える、確かにいるねー」
監視玉には薄暗い部屋が映り、部屋の真ん中にサイクロプスが仁王立ちしている。
「それで、この紙に向かって命令すれば、サイクロプスちゃんは命令に従って動くのです!」
「よしじゃあさっそく……ん?」
水晶に妙なものが映る。
天井のほうから、ロープが垂れてきているのだ。
「これって……」
「人間! 人間が来るのです!」
初めてダンジョンが人間に攻め入られた。
監視玉(かんしだま)に人間の男がロープを伝って降下してくる様子が映し出される。
「冒険者のようなのです。まだダンジョンを作って間もないのにこんなに早く来るとは……」
「街に近い場所にあるからね。でもあの冒険者……そこそこ強いね」
リックは冒険者の装備を見る。
装備を見れば冒険者の大まかな実力が分かるが、
そこそこ高級な装備をしている。
推定C~Bランクの冒険者だ。
大きな剣を背負っており、かなりごつい鎧を装備している戦士だ。
「後から誰も入ってこないね。ソロなのかな」
「そこそこ強そうな人ですのでなめて来たのですね! さっそくサイクロプスちゃんに退治するよう命令を出すのです!」
C~Bランクの冒険者がサイクロプスを倒すのは10人以上いないと無理と言われていた。
一人だとまず勝ち目は無い。
リックは言われるがまま命令を出そうとした時、
ふと自分がやろうとしている事に違和感を覚える。
(これ命令を出したらあの人、死んじゃうよね。それって人殺しじゃん)
当たり前の事なのだが、リックは今それに気付いた。
しかし、気付いたからといって、命令をやめようとか、
逃がしてやろうとか、そう言った気分には何故かならない。
リックは人殺しの経験はあるにはある。
その時、殺した者達はどうしようもない悪人達で、
勇者パーティーを陥れようとしてきたので、勇者が激怒し、
皆殺しにしたのだった。
その時、リックも何人か殺している。
リックはその時、人を殺した感覚を鮮明に覚えている。
殺した相手は悪人なのだが、どうしようもないくらいの
罪悪感に苛まれ。何度か夢に見たくらいだ。
リックが今殺そうとしている相手はただの冒険者だ。
悪党か善人かは区別は付かないが、
ここまで何も感じず。
殺してやろうと思うのにリックは違和感を持つ。
例えるならば、食べるために兎や鳥を殺すような。
可哀想なのだが……それだけだ。
殺したほうがいいのならそれほど躊躇せずに殺せる。
それと同じ感覚を持っていた。
(どうしたんだろう……僕は)
おかしいと思うのだが原因は分からない。
「ご主人様どうしたのですか? さっき血を染み込ませた通信紙に向かって、早く命令をだすのです! あの冒険者を撃退するように!」
ユーリがリックを急かす。
違和感はあるけど、考えても仕方無いと、リックは思い。
サイクロプスに命令を出した。
「サイクロプス、侵入者を退治して」
リックはそう命令した。
どしんどしんとサイクロプスが動き出す。
その音を聞いて冒険者は何事かと。
キョロキョロと辺りを見回している。
そして、冒険者の視界にサイクロプスが入ったのか、
冒険者は驚愕する。こんな場所にサイクロプスが居るとは夢にも思っていなかったのか、
対応が遅れる。
そしてあっさりと、サイクロプスは冒険者を拳で殴り、
冒険者は凄い勢いで吹き飛び壁に激突、
血や内臓を撒き散らして絶命した。
「やったのです! 倒したのです!」
その後、冒険者の死体はダンジョンに吸収され、
血の一滴も残さずに死体は消え去った。
後に残されたのは冒険者の装備だけだった。
「やったのですご主人様! さっそくDPゲットなのです!」
「……うーん」
喜ぶユーリとは対照的に、リックは難しい顔をして何かを考えていた。
リックはこの凄惨な様子を見ても。可哀想だなグロいなぐらいの感想しか湧いて来ない。
初めて人が殺されたのを見たときに感じた。
あの恐怖感、忌避感は微塵も湧いて来なかった
(おかしいよなやっぱ……)
リックは、顎に手を当て首を捻りながら考える。
「どうしたのですか?」
その様子を見た。ユーリが尋ねる。
「それが……」
リックは、ユーリなら知っているのでは? と思い。
事情を話した。
「なるほど、それは私と契約したことが原因なのですね」
「契約したことが原因?」
「ええ、精霊と契約すると生物として本質、根源が変わってしまうことがあるのです。ご主人様は私と契約したことで人間からダンジョン精霊に近い存在に変わったのかもしれないのです」
「ええ!? 僕は人間じゃ無くなってたって事!?」
ユーリの言葉にリックは驚愕する。
「その可能性が高いのです。ダンジョン精霊は生物を殺すのに罪悪感を抱かないのです。全部餌だと思っているのですから」
ダンジョン精霊とはなかなか業の深い存在だった。
「ええ~衝撃だよ」
「まあどうでもいいのです! 人かどうかなんて! ご主人様はご主人様なのです!」
「うーん……」
リックは人間じゃなくなったかもしれないことにショックを受けたが、
ユーリと契約したのはユーリを助けるためだったので、
それで人間じゃなくなるのはもう仕方の無い事だったのでは? と思った。
どっちにしろ人間を殺さないといけないなら、
いちいち罪悪感など感じないほうが良いと、
リックは前向きに捉えることにした。
「さて、さきほどの人間から獲得したDPですが……1500DP獲得したのです!」
「え? そんなに?」
「やはりそこそこ強い人間だったみたいなのです! 普通は200ほどですが強い人間だと獲得DPも上がるのです!」
「そうなんだ。1500DP何に使おうか」
「私はまずは階を増やすべきだと思うのですが、ご主人様が自由に使い方を決めるのです!」
「うーん、そうだな……」
リックはカタログを見ながら考えて、
DPを使った。