第一話 追放された錬金術師
「ふふんふんふふーん」
本や紙などが床に散乱している部屋。
その部屋の真ん中には大きな壺が置いてあり、
壺の中には紫色の液体が入っている。
その液体を木の棒で、
鼻歌を歌いながらかき混ぜている男がいた。
「よし! 完成!」
男がそう言ったと同時。
液体が紫色のから金色へと変色した。
キラキラと液体は輝いている。
「これはすごい効能があるポーションが、できたかもしれないぞ!」
男は液体を見ながらそう言った。
彼の名はリック・エルロード。
髪は黒くボサボサしており、古びた白衣を着ている。
顔は冴えなく、背丈は平均的。
年齢は17歳とまだ若い。
リックは錬金術師だった。
この部屋はリックが研究を行うアトリエだ。
リックは二日後に行くことになっている、ダンジョン攻略の準備として、
特製のポーションを作っている所だった。
「僕も勇者アレンのパーティとして、恥じない活躍をしなくてはならない」
リックは勇者のパーティーに所属していた。
彼のパーティーでの役割は、錬金術で作製した物を使い、パーティーを支援することだった。
リックは勇者のパーティーの一員である事を誇りに思っており、
常に全力で錬金術の研究をしていた。
コンコンと部屋の扉がノックされる。
「リック俺だ話がある。開けてくれ」
「あ、アレン! ちょうどいい所に。開いてるから入っていいよー」
リックがそう言った後、扉が開き男が入ってくる。
金髪で背の高いイケメン。
ラフな格好をしているが、腰に豪華な装飾が施された剣を装備している。
勇者アレン、この国では知らぬ者のいない英雄であり、
リックの所属しているパーティーのリーダーである。
「これさ、さっき作ったポーションなんだけど、このポーションはただ強化をするんじゃなくて……」
「ああ待て、急いで話したい事がある」
嬉しそうに話すリックをアレンは止めた。
「何だろう話って」
「単刀直入に言うが、お前は俺達のパーティーには相応しくないと判断し、追放する事にした」
「へ?」
鳩が豆鉄砲を食ったかのような表情をするリック。
「え……と……何の冗談?」
「俺は冗談は好きではない」
「いやそれはそうだけど、今日だってポーション作って準備してたし」
「それが?」
「いやおかしいじゃんいきなり、今まで上手くやってきただろ僕達? 」
「とにかく、パーティーメンバー全員一致でお前は追放する事に決まった」
「そ、そんな……」
アレンの言葉にリックは、目の前が真っ暗になりそうな程の衝撃を受けた。
勇者のパーティーに所属している事を、誇りに思っている彼にとって、
その言葉は半身が引き裂かれる程の衝撃があった。
リックは俯き。
「理由を教えてくれ……」
絞り出すようにそう言った。
「お前より優れた錬金術師が、見つかったからだ」
アレンのその言葉に、リックはパッと顔を上げる。
僕より優れた錬金術師が、見つかった?
何か僕に落ち度があって、追放するとかじゃなく?
それはあんまりじゃないか?
「入れ」
アレンが扉に向かって、そう言った。
すると男が部屋に入ってきた。
眼鏡をかけた背の低い男。
歳はリックより少し下に見える。
「こいつがお前の代わりに入る錬金術師だ」
「初めまして、ドーマ・グレゲインです。あ、覚えてもらわなくても結構ですよ」
入ってきた男は、ドーマと名乗った。
ナチュラルに人を見下しているような目だった。
「今日からこの部屋はドーマの物だ。お前は早々に立ち去れ」
「こ、ここは僕のアトリエだぞ!?」
「この部屋はあくまで勇者のパーティーということで、貸して貰えてたんだ。パーティーじゃないなら当然ここもお前の物ではない」
「確かにそうだけどここを出たら僕はどうやって研究したら……」
「知らんそんなこと、抵抗するなら力尽くで追い出す」
「う……」
腕っぷしで勇者であるアレンに敵うはずもない。
リックは従うしかなかった。
「ああ、自分で買った道具とかは持って行っていいぞ。最初から支給されたものは置いて行ってもらうがな」
アレンは淡々と述べた。
リックはアレンの今まで仲間だったのが嘘だったかのような態度に。
本気の本気で追い出すつもりなんだと悟った。
「……分かったよ出て行くよ……荷物をまとめるから少し時間をくれ……」
「分かった。早くしろよ」
リックは大きなリュックを取り出し、
必要な物を詰める。
一つ一つ詰めると、思い出が蘇ってきて涙が溢れて来た。
前のダンジョン攻略の時は、普通にやっていたはずだった。
いつから? 僕を追い出そうとしたのは?
そんなに僕は駄目だったか?
リックの頭にそんな考えがグルグルと回る。
リックはあらかた必要な物は詰め終えて、
出て行こうとするが、
これだけは最後にやっておこうと思い。
瓶を取り出し先程作ったポーションを瓶に入れた。
「これさっき作ったポーションだ。これだけは持って行ってくれ」
そう言ってアレンに渡そうとした。
しかし、アレンは受け取らない。
代わりにドーマがそのポーションに顔を近づけて言った。
「ふむ、見るだけで分かる。良いポーションだ、調合のレベルは高いようですね」
ドーマはポーションを見ながらそう言った。
「しかし、それだけに惜しい。貴方が調合しか出来ない、ダンジョン攻略では使えない、無能な錬金術師だという事実が」
「な、何?」
いきなり罵倒されリックは狼狽える。
「錬金術師は調合して支援してれば良いと言うわけでは無いでしょ。ダンジョンではある程度足を引っ張らない程度には動けないと。貴方の場合は常に他の人に庇って貰って足を引っ張っていたらしいじゃないですか。ま、そんな無能追放されて当然ですね。名高き勇者アレンのパーティーにはあまりにも相応しくない」
「ドーマわざわざよけいな事を言うな」
「そうですね。言ってももう意味ないですもんね。あ、このポーション、良いものですが、僕もこの程度は作れるので必要ないです。じゃあお別れですね。もう二度と会う事もないでしょう」
何だよその言い草は僕だって頑張っていたのに……
ドーマの発言に、納得のいかない思いが湧いてくる。
しかし、言い返す言葉は出なかった。
庇って貰っていたのは事実だったからだ。
リックは悔しくてポーションを床に叩きつけ、
無言で立ち去った。
「あらら勿体無い。良いものなのは事実なのに」
「ドーマさっそく準備しろ、無能がいなくなったから、次のダンジョンは楽に攻略出来そうだ」
「ええ、そうですね。しかし疑問だな何でそんな無能が勇者のパーティーに?」
「古くからいたから何となくだ。古くからいたからと言って、別に惜しくもなんとも無いがな」
「ははは、そうですか」
その後、ドーマは部屋に入り準備を始めた。
二人の頭からしばらく、リックの名は消え去った。
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