50.残りの勇者
俺たちは島を出た後、ルリとクラリカと分かれた。二人はテンノース山に戻るようである。
その後、俺たちは一旦ヴァーフォルに戻るため、帰路についていた。
エルフの姿に戻ったメクだったが、なぜかそのあと、ぬいぐるみの姿に戻っていた。
「この姿は屈辱的であるから、もう二度となりとうないと思っておったが、じゃが、歳を取らぬというのは、非常に良い。呪文も完全に覚えたし、自由に戻れるのなら、この姿もありかもしれんと思うてな」
「エルフって、寿命長いけど、歳とか気にするもんなのか?」
「当然じゃ。人間じゃろうがエルフじゃろうが、歳を取りたくないという気持ちは同じじゃろう」
寿命がないと言っても、ないわけじゃないしな。ほとんどぬいぐるみで過ごしていたら、かなり寿命が延びそうである。
元のエルフの寿命は、確か人間の三倍くらいと聞いた。ぬいぐるみになっていれば、メクは千年以上生きても不思議ではないと思う。そんなに生きたら、飽きるかもしれないけどな。
「まあ、それに元の姿じゃと、テツヤが動揺するのでな。美女過ぎるというのは罪じゃのう」
俺をからかうようにメクは言ってきた。
反論は出来ない。正直、ぬいぐるみ姿の方が接しやすい。
もちろん男として、美女のメクと一緒にいたいという欲望もあるので、残念な気持ちもあるけど。
「さて、テツヤに対するお礼じゃが……」
メクはまだお礼に何をするか言ってきていない。俺としてはお礼を貰うためにやったことではないので、要らないのだが、本人がどうしてもしたいようだ。
「やはり一日わしに何でも命令してもいいというのが、一番良さそうじゃが」
「な、何でも命令していい!?」
な、何でも言って行ったか今? そ、それだったら、あんなことやこんなこと……。
「何かテツヤが変な表情してるにゃ」
「男じゃから妄想しておるのじゃ。間抜けな顔じゃのう」
「ハッ!!」
うっかり妄想していたら、二人に白い目で見られてしまった。
メクは仲間だし、妄想の材料になどしてはいけないんだが、何でもと言ったら、どうしても妄想してしまうだろ。
「とにかくわしにして欲しいことがあったら、何でも言ってくれ。まあ、テツヤに過激な事をするような度胸はないじゃろうがな」
ハッハッハと挑発するように笑うメク。
むう、相変わらずお礼と言いながらからかってくるな。
反論できないのが辛いところだ。女性経験皆無の俺に、そんなエロい命令なんて出来るはずはない。
しかし、メクは毎回からかってくるが、男性経験があるのだろうか? 聞いたことなかったな。
当然、ぬいぐるみの姿の時にそんな経験ないだろう。よほどのド変態に捕まったという過去がない限りは、ないはずだ。仮にあったとしても、それは男性経験には入らないだろう。
ぬいぐるみになるまで、20年くらいは生きているわけで……その間に男性経験があっても不思議ではないが……しかし、女王だって話だから、軽い気持ちで誰かとつき合ったりは出来ないだろうし。
俺をからかってきながら、自分も経験なしの可能性もあるというわけか。
仕返しに俺がメクをからかってみるか?
過激な事を命令するフリをしたら、面白い反応が見られるかもしれない。
向こうからやってきたから、悪いのはメクだし……
よし……今日の夜、結構しよう。
町に到着し、宿に泊まる。
レーニャはすぐ寝た。
メクはぬいぐるみの姿だと寝れないので、元の姿に戻っていた。
寝るのは気持ちいいので、定期的に元の姿に戻って寝たいと思っているようだ。
「よし、寝るかのう」
「待った、何でも言ってくれと言った奴だけど、今、聞いてくれるか?」
「な、なに?」
メクは少したじろいでいる。
「い、今じゃなきゃ駄目じゃろうか?」
「今がいいんだ」
「わ、分かった何でも頼んでくれ……」
メクは腹を括ったようにそう言った。
俺は、ちょっとからかうつもりだったのだが、何となく真剣にお願いをするような雰囲気になっており、何だか言い出しづらくなってしまった。
仮にここで何か言ってしまったら、本当にすることになりそうな。
ほ、本当はキスしてくれとでもいって、からかってやろうと思っていたんだが……
「ひ、膝枕をしてくれ」
妥協して俺はそう言った。
俺がそう言うと、メクはキョトンとしたような表情になり、その後、笑い始めた。
「はっはっは、そのくらいならいくらでもやってやる。ほら座るから、頭を乗せるのじゃ」
メクが正座をした。俺はドキドキしながら、メクの膝に頭を乗せる。
柔らかい感覚が頭に当たる。非常に心地がいい。このまま、眠ってしまいたいくらいだ。
「全くお主はヘタレじゃのう。もっと凄いこと要求されるかと思っておったが」
「ぐ……」
今回ばかりは自分でもヘタレだと思うので、反論できない。
メクはそんな俺を見て、僅かに微笑む。
その後、口を俺の頬に近づけてきた。
柔らかい感触が俺の頬に当たる。
「本当はこれをして欲しかったんじゃろ」
俺はあまりの事に放心状態になる。
ほ、ほっぺにだけど、キ、キスされた。
顔が熱くなる。多分、真っ赤になっているだろう。
ふと、メクを見ると、彼女も顔を赤くして恥ずかしそうな表情をしていた。どうやら、やり慣れているというわけではないようだ。
「よ、よし、もういいじゃろ! 眠いから寝るのじゃ! 早く立て!」
そう促されて、俺は慌ててたった。
メクの太ももの感触が名残惜しく感じる。
その後、布団に入る。先程のキスの感触を思い出して悶々としたため、眠りに付くのにだいぶ時間がかかり、寝不足になってしまった。
翌日からは、メクはいつも通りな感じだった。基本ぬいぐるみの姿でいて、この姿の時は特に緊張もせず話すことはできる。
○
それから数日旅をして、ヴァーフォルに到着した。
「……そういえばメクは国に帰らなくていいのか? 俺へのお礼はもう終わったし……女王に戻った方がいいいんじゃ……」
「む? 何じゃ、わしと別れたいと申すか? 冷たい奴じゃのう」
「い、いや、そうじゃないが。女王に戻らなくていいのか気になって……」
「そうじゃのう。前、サクとおうたときは、帰ってこいと言われたのじゃが……サクは良き女王になっておったし……今更わしが元の姿に戻ったと言って国に帰っても、余計な混乱を招くだけじゃからなぁ。もう何十年もおらんかったわけじゃし。たまには帰ってやるが、好きに元の姿に戻れるようになったとは言わん方がいいじゃろう」
「メクはそれでいいのか?」
「よいよい。お主らと一緒におるのは、楽しいしの」
メクは笑顔でそういった。別れるのは寂しかったので、メクがそう言ってくれて、俺も嬉しい気持ちと少し安心した気持ちを抱いた。
その後、俺たちはリコの家に行き、戻った挨拶に向かった。
「あ、お帰りなさいテツヤさん! あ、メクさんは……戻れなかったんですね……」
メクがぬいぐるみの姿だったので、戻れなかったと勘違いしていたので、事情を話した。
「はぁーなるほど、歳を取らなくなるんですか。何だか羨ましいですね。私にも魔法かけて欲しいかもしれません」
まあ、確かに歳を取らなくなるのは魅力的な効果だ。ぬいぐるみになるのは、問題だけど。
リコとは色々話をした。
俺たちがいないあいだ、何か変わったことは起きなかったと尋ねた。
「ヴァーフォルでは特に何も問題はないんですが……色々噂を聞いていまして……勇者が本格的に大暴れをし始めて、色んな国を滅ぼしていると……」
「勇者が……!」
不良勇者は確か残り二人。
不良どものリーダー格と思わしき奴は、限界レベルが凄まじかった。恐らく、そいつが暴れているものと思われる。
不良どもへの復讐心は今の俺にはほとんどない。
しかし、同じ世界から来たものとして、不良どもを止めなければという気持ちはあった。
この世界にも、色んな人が一生懸命生きているのに、奴らのようなクズに、そんな人達が殺されているのは、理不尽だし、胸糞が悪い。
同じ世界から来た人間として、無関係だとは思っていられない。止めなくてはいけない。
もしかしたら、またヴァーフォルに攻めてくるかもしれないしな。時間が経てば経つほど、勇者達は自身の勢力を拡大させたり、何度も戦うことで自己の強化もしたりと、どんどん強くなっていって、倒し辛くもなる。
動くなら早い方がいいだろう。
「なあ、俺は勇者達を止めたいと思っているんだが……」
「と、止めるですか? しかし、勇者はかなり強いですよ……? 限界レベルが120以上の人も、まだ生きていますし。テツヤさんも強いですし、何人か倒したのも知っていますけど……もしかしたら負けるかも……」
リコが心配そうな表情で俺にそう言ってきた。
彼女の言っていることはもっともだ。
確かに俺は死体吸収スキルで、強くなったが、それでも倒せるという保証はない。
だが、やはり見逃したくはない。
「俺は日本で生まれて日本で育った男で、この世界の住人じゃない。でも、ここに来て仲間もできたし、居場所もできた。時折日本が懐かしくなることもあるけど、でも、今はここが俺の居場所なんだ。そこを害する奴らを放ってはおけない」
「テツヤさん……」
リコは俺を見て頷いた。
「私もヴァーフォルが今では故郷みたいなものです。日本に帰れるって言われても、帰らないと思います。だから、私も勇者を倒すため、全力でお力をお貸しします」
彼女は真剣な表情でそういった。
「異界来たというお主らがやると言っておるのに、わしらがやらんわけにはいかんじゃろうな。また故国に、攻めて来られても困るしのう」
「レーニャも出来るだけのことはするにゃ!」
二人も協力してくれるようだ。
「わかった一緒に勇者を倒そう!」
俺たちの目標は勇者たちの討伐となった。
「まずは情報収集じゃな。勇者の連中について、話を集めよう。このヴァーフォルは色んな連中が出入りしておるから、情報通も多いじゃろう。話を聞きに行くのじゃ」
メクがそう言って、俺たちは勇者についての情報収集を始めた。
〇
勇者山下海斗と酒井礼二は、同じ城に集まり話し合いをしていた。
「や、山ちゃん……俺たち仲間だろ?」
話し合いというより、酒井礼二が山下海斗に、懇願しているような様子であった。
「仲間? それは昔の話だ。俺はこの世界の誰よりも強く、偉い存在だ。つまりこの世界は全て俺のものってことだ。だから、お前は俺の仲間ではなく、手下だ」
威圧的な態度で海斗はそう言った。
はっきりと見下すような態度であった。坂井礼二は言い返したそうな表情をしていたが、しかし、何も言わなかった。
言い返すと痛い目に遭うだろうと分かっていたからだ。
「とにかくお前が攻め取った領地は、今日から俺のものだ。お前は勇者で強いから、高い地位をくれやろう。これからは俺の命令には絶対服従だ」
元々各々勝手に領地を攻め取っていた二人で、それぞれ自分の城や家臣を持っていたのだが、礼二はその全てを海斗に差し出せと迫られていた。
当然すぐ頷けることではない。日本にいた頃から、海斗は格上であるとは思っていたが、それでも歳も同じの仲間で、明確な上下関係があったわけではなかったが、頷いたら海斗手下になることになる。
彼にもプライドはあったが、しかし、拒否をしたら何をされるかわからない。
海斗と礼二の間には、大きな実力の差があった。
「…………分かった」
返答まで長い時間を要したが、結局坂井礼二は頷いた。
こうして海斗は大勢の手下を得た、大勢力の主人となっていた。
○
「調べた情報によると……予想以上にやばいみたいだな」
知らなかった情報がいくつも出てきた。
まず、勇者は召喚した国の王様を完全に服従して、やりたい放題やっているようだ。
征服した場所はかなり多い。
疑問なのは元々勇者たちは、目標の土地を征服したら、元の世界に帰るみたいな感じだったはずだが、これだけ征服しても、まだ目標を達成していないのだろうか?
もしかしたら、この世界にいた方がいい思いが出来ると思った勇者たちが、目標の変更でもしたのかもしれない。出来るかどうかは知らないけど。
とにかく相当戦力を増強させているようなので、こちらが兵を率いて勇者の軍を粉砕するのは、正直言って現実的ではない。
仮に出来たとしても、敵軍、味方に甚大な死者が出るのは必至だ。
あくまで俺たちが止めたいのは、勇者だけである。民間人への被害はなるべく少数にとどめたい。
何か勇者達だけを釣り出して、倒す方法がないだろうか?
俺はみんなと意見を出し合い、勇者の倒し方を考えた。
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完結まで更新する予定でしたが、多忙につき書けませんでした。申し訳ありません。次回はいつになるか分かりませんが、完結まで書いて更新したいと思います。
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