48.ソウルロードへ
「ついてきて」
クラリカがソウルロードへの入り口まで、案内してくれるというので俺は大人しく後をついていった。
洞窟を出て、島を歩く。
「ここだよ」
と言って止まったのは、何の変哲のない砂浜だった。
「ここに何があるんだ?」
「ソウルロードの入り口さ。こういう一見何もなさげな場所に、ソウルロードへの入り口ってのはあるんだ」
「そうなのか……どうやって入るんだ?」
「魔法で入り口を作る。ちょっと待ってて」
クラリカは呪文を唱える。とても長い呪文だ。特に何かを見ながら唱えているというわけではない。
こんだけ長い呪文を覚えられるなら、メクの呪文だって覚えてそうなもんなのにな。何で忘れたんだこの人。
呪文を唱え終える。しかし、入り口とやらは現れない。
「何も起きないぞ」
「……あー、呪文間違えちゃった。やっぱ見ないと無理か」
「何度そりゃ。最初から見ておけよ」
「何回も唱えているから今度こそいけるかなぁーって、無いそんな事?」
「そんなことない……わけでもないな……」
元の世界で、無駄に複雑なパスワードを設定して、何度も使ったからもう暗記できてるだろって、メモを見ずに打ち込んだら、駄目で結局メモを見ることになった。何てことは何度かあった。
クラリカは今度はメモを見ながら、長い呪文を唱えた。
唱え終えると、空間に穴が現れた。奥は霧がかかっているようで、全く見えない。
「この先がソウルロード。怖い場所だから気を引き締めていくよ」
「分かった」
クラリカの言葉に、俺は頷いた。確かに穴の先から、嫌な雰囲気をバンバン感じる。俺はだいぶ強くなったとはいえ、別に最強になったというわけではないだろう。気を抜いたらやられるかもしれない。
俺とクラリカは、慎重に穴の中に足を踏み入れた。
穴に入った瞬間、嫌な気配が増大した。正直ちょっとだけ恐怖心を感じる。
中に入っても相変わらず前は見えない。霧がかかっており、めちゃくちゃ歩きにくい。
「この霧どうにかならないのか?」
「もうちょっと歩けば霧がないところに出るよ」
「それならよかった」
「まあ、でもそっからが、本番なんだけど」
本番か……敵が出てくるということだろう。気を引き締めて進まないとな。
クラリカの言葉通り、しばらく進むと霧が晴れた。
見えるようになると、幻想的な光景が広がっていた。
どこまで続いているか分からないほど、向こうのまで続いている、一直線の道。道幅は広く、100mはありそうだ。地面は真っ白。
空にはオーロラのような幻想的な光が出来ていた。
綺麗な場所といえば綺麗な場所だが、俺は得体の知れない不安感を胸に抱いていた。
「すごい場所だな……そういえば上着を引っ掛けて落としたって言ってたけど、どこで引っ掛けたんだ? 何か引っ掛けるような場所はないように見えるけど」
先にはただただ、平な地面が続いているだけで、他には何も見えなかった。
「ずーーーーっと先に歩いていくと、集落だったぽいところがあるんだよ。誰もいないけど、家だけはあるんだ。そこを調査していたら、敵に襲われて逃げてきたってわけ」
ずーーーっとを強調するように伸ばしたので、かなり先にあるのだろう。出来れば早く出たい場所なのだが。
「道は一本だし迷うことはないから安心だね。行くよ」
「ああ」
俺とクラリカは歩き始める。
「そういえば、何でこんな場所に行こうと思ったんだ?」
何にもなくて暇なので、雑談を交わす。
「私は好奇心旺盛なんだ。この場所を見つけた後、どんな場所か調べてみたくなってね。ただ、洒落にならない場所だって分かってからは、いかないようにしてたんだけど。命は惜しいからね」
好奇心でこんなところに来るとは……やはりだいぶ変わった人のようだ。
それから先にずっとずっと歩いていく。あまりにも長く、最初は雑談をしていたが、次第に口数も減ってきて、無言で歩いていた。
「来る」
いきなりクラリカが、身構えながら呟いた。何が来るか分からないが、俺も一緒に身構える。
数秒後、空から何かが飛来してきた。
飛んできてものを目で見たが、何かはっきりとは分からなかった。
同じ大きさ丸く白い球体が、一個一個繋がって、蛇みたいになっており、それが空を泳ぐようにして飛んでいた。
たまの大きさは結構大きく、バランスボールより二回りほど大きい。そのたまが二十個は繋がっているので、巨体である。
どこに顔があるのかも分からない、奇妙すぎる生物である。いや、生物なのかも分からない。何なんだこいつは。
鑑定で見てみると、何か文字化けした文字が表示された。正体不明である。どれだけ強いのかわからないのは、若干不安だ。
「あれ何なんだ?」
「私は玉蛇って呼んでるけど、実際何なのかは分かんないね。こっちを無視することもあれば、攻撃してくる時もある。攻撃されたら撃退するまで、どこまでも追いかけてくるから、倒すしかない」
「強いのか?」
「弱くはないが、私一人でも倒せるレベルだ。君がいれば問題はあるまい」
倒せるのか。まあ、でも無駄な戦闘はしたくないから、どっか行って欲しいけど。
俺の願いは届かず、玉蛇はこっちに向かってきた。
戦うしかなさそうだ。
メテオを玉蛇に向かって落とす。
ちょうど体の真ん中あたりに直撃して、球が三つほど粉砕された。
玉蛇は地面に落下して、動かなくなった。
死んだようだ。
「一発か。うーん、流石だな」
クラリカは感心したように唸った。
俺は玉蛇の死骸に近づいて吸収しようとしたが、なぜか出来なかった。
「吸収できない。こいつ生き物じゃないのか?」
「確か、君のスキルは死体を吸収して強くなるって奴だったね。そいつは、正直、内臓だとか脳だとか生物らしい機関がまるでなかったから、生物じゃないかと思ってんだが、実際そうだったかもな」
内臓も膿もないのか?
俺は玉蛇の玉を拳で砕いてみたら、確かにただの石みたいな素材でできていて、中に何か詰まっているということはなかった。わけの分からないやつがいる世界だな。
「さて、先に進もう」
クラリカに促されて先に進むが、不気味さを感じずにはいられなかった。
歩いていると、さっきの玉蛇には、何体か出くわした。襲われない確率の方が高く、六体出くわして、襲ってきたのは一体だけだった。どういう基準で襲うのと襲わないのを決めているとのか、謎である。
この玉蛇以外は、今の所何も出てきていない。
「あ、あった」
クラリカが指を刺した先に、集落があった。
本当にあったんだな。集落があるところだけ、道の横幅が広くなっている。
「気を引き締めてね。あの集落には本当にやばいのがいるから。奴がいたから、私も尻尾を巻いて逃げ出したんだ」
クラリカが警告をしてきた。玉蛇は雑魚だったとはいえ、何かやばそうなものがいそうな雰囲気は、バリバリ感じる。警戒心を俺は高めた。
慎重に集落に近づく。
「何もいないようだね」
敵の気配も、住民の気配もない。異様な場所だった。
家は何の変哲もない、平凡なレンガ作りの家である。真っ白い床に、三十件ほど立ち並んでいた。
割と異様な光景だ。何なんだろうなこの場所は。
「この前もそうだったけど、敵は空からやってくる。今回も来るか今は分からないけど、何もいないからって油断したらダメだよ」
注意されて俺は頷く。
「それにしても妙だね。あの家、何軒か破壊されてたはずなのに、全部無傷だ。自動的に修復されるのかな。それとも同じ場所に見えて、全然違う場所だとか」
前回行った時、逃げる際、家を破壊したりしたのだろか。
同じ場所に見えて、違う場所というのは……あり得ないと言いたいところだが、こんな変な場所だと、ありそうで怖い。
俺たちは慎重に集落に足を踏み入れた。
「確かこっち……」
クラリカが記憶を思い出しながら、歩く。俺はそれについて行く。
「この家だ。間違いない」
家の中に入る。家の中も、特に変わったところはない。
「あった!」
クラリカが声を上げた。上着が、椅子にかけられていた。
「あー、思い出した。ここでくつろいでたら、奴が来たんだ。引っ掛けたんじゃなかったね」
微妙な記憶の違いがあったようだが、そんなのどっちでもいい。
「手帳はあるのか?」
「あると思うよ」
クラリカは上着を手に取って、調べる。
「あったあった。これだ。うんうん、呪文も書いてある。これがあれば、メクちゃんも元の姿に自由に戻れるようになるよ」
「ほ、本当か?」
クラリカは頷いた。俺はほっと一安心する。そして、良い報告を受けて、喜ぶメクの姿が目に浮かび、口元が少し緩んだ。
その瞬間、ヒューと、何かが落下してくるような音が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
「や、やばい! 外に出るよ!」
大慌てでクラリカが外に出るので、俺も一緒に出る。
外に出ると、何か巨大な物が、空から落下してきた。
そして、ズドーン!! と轟音を立てながら、地面についた。落下の衝撃で、地面が大きく揺れる。
落下地点にあった家は、落ち潰されて、原型をとどめていなかった。
「な、何だあれ?」
落ちてきたものの正体は、見ても分からなかった。
真っ白い、ビル並みに巨大な、直方体の謎の物体である。鑑定してみたが、前の玉蛇と同じく文字化けして鑑定できなかった。
敵なのかこれ? と、観察していると、ピカッと光を放った。
「危ない!」
クラリカが叫んだ瞬間、目の前に、壁が現れる。その壁に何かが飛んできて、直撃して、日々が入った。
「あ、危ない。アレに当たると魂にダメージを食らっちゃうんだ」
「今の魔法で防御してくれたのか?」
クラリカが頷く。
「ありがとう。でも、魂にダメージを喰らうとどうなるんだ?」
「戦闘力が一気に落ちるんだ。スキルとか魔法とかも、使い辛くなる。食らいすぎると死んじゃうし。とにかく逃げるよ! あいつはあそこからは動かないんだ」
「分かった」
戦う理由もない。メモ帳も取ったし。無視するのが一番だろう。たぶん死体吸収も無理だろうし。
俺たちはすぐに謎の生物? から逃げた。
途中何発か、魂を削るという攻撃を撃たれたが、全部回避した。
「ここまでくれば、もう奴の攻撃も届かないだろう」
「よかった。早速帰って、メクの呪いを解いてくれ」
「うん……あれ?」
クラリカが、取ってきた上着をガサゴソと漁る。何をしているのだろうか?
「どうした?」
「いや、えーと、ちょっと待って?」
やたら焦っているようだ。顔に冷や汗をかいている。
まさか……
俺は嫌な予感を感じた。
そして、その予感は的中していた。
「ごめん。メモ帳落としてきちゃったみたい」
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません