39.森に入る
トーカ村から歩いて数十分のところに、ルクファナの森はあった。
確かに言われた通り、森の中心辺りに巨大な樹がある。
普通の樹より抜きんでた大きさであった。
「本当に大きい樹だにゃー」
「何年前からあれば、あんなにでかくなるのじゃろうか。まあ、あれなら目印としても申し分ないのう」
あれだけ大きければ、迷わずに目指すことが出来る。
俺たちは森に入り、樹を目指した。
森に入って歩き出して、数分後、
魔物と出くわす。
二足歩行している大きなトカゲだ。
リザードマンというやつだが、普通のリザードマンと違うところがいくつかある。
まず体色が黄色だ。普通は緑である。
さらに角が生えており、その角がビリビリと電気を帯びている。
そして、通常のリザードマンより一回り大きかった。
俺は【鑑定】を使って調べてみる。
『サンダーリザードマン Lv.33/43
雷を帯びたリザードマン。非常に強力な電撃を操る。
角は弱点で攻撃されると、数分間行動不可能になる。
HP 222/222
MP 32/32
スキル 【雷撃Lv3】
耐性 【電耐性Lv10】」
【鑑定】も旅をしてあげており、レベル5になったので弱点とスキルまで見ることが出来るようになった。
弱い魔物ではないが……まあ、俺の敵ではない。
「ここはアタシが行くにゃ!」
とレーニャが装備していたナックルで、リザードマンに殴りかかる。
レーニャも勇者との戦いや、旅の間にレベルは大幅に上がり、52になっている。
レベル差があるので、レーニャは性能でサンダーリザードマンを圧倒。
あっさりと勝利した。
「勝ったにゃー」
「サンダーリザードマンは結構強い敵じゃったという記憶があったがのう。レーニャも成長したのう」
「えへへ」
それから俺はサンダーリザードマンを吸収。
HP55上昇、MP8上昇、攻撃力13上昇、防御力11上昇、速さ10上昇、スキルポイント3獲得。
このレベルの魔物がこの森にはどれだけいるのだろうか?
頻繁に出るようなら、結構俺もここで強くなれるな。
俺たちは巨大な樹を目標に森を歩いていく。
巨大な樹が見えなくなった時などは、ジャンプして確認した。
今の俺のジャンプ力なら、通常の樹の高さ以上飛ぶことが可能である。
サンダーリザードマンは二度目は出なかったが、それに近いくらい強い魔物は、それなりに出現した。
苦戦は全くせず、片っ端から退治して吸収していく。
旅の道中にはあまり強い魔物と出くわすことはなかったので、そこまで急成長は出来なかったが、今回はかなりの勢いで成長している。
今度からは危険だと言われている場所にも、積極的に行ってみるのもありだろう。
数時間歩き続け、巨大な樹の根元に到着。
「近くで見たらさらにでかいにゃ。物凄く太いし」
樹の太さは際立っていた。
一周するだけで、数分かかりそうである。
「ここから西に行けばいいのじゃったの。テツヤ、コンパスは持っておるか?」
「ああ」
方角を確かめるためのコンパスは、旅をするためには持っておきたいので、以前に購入し、常に携帯していた。
俺は懐からコンパスを取り出し、西がどちらかを調べる。
「こっちだ。行こう」
西がどちらかを調べたら、その方角に向かって俺たちは歩き始めた。
魔物を倒しながら歩いていく。それなりにレベルの高い魔物が出てはきたのだが、苦戦するほどの奴は出てこなかった。
歩き続けて一時間ほど、
「お、あれじゃないか?」
俺の視界の先にオンボロの小屋が見えてきた。
「たぶんそうじゃのう」
「ボロい小屋だにゃー」
近付いて確認する。
「ふむ、もしかしたら出て行ったのは一時的なもので、ここに帰ってきている可能性もあると思っておったが、このようすではそれはないじゃろうな」
小屋はもう何十年も放置されているというくらいのボロボロさだ。
ここに人が住んでいるとは到底思えなかった。
「中に入って調べてみよう」
「ああ」
俺たちは小屋の中に入る。
扉は壊れていたので、開けずに中に入ることが出来た。
家の中もボロボロだが、床に魔法陣が書いてあったり、かけたツボがあったり、ボロボロの本が置いてあったりと、魔女が住んでいたという雰囲気は微かであるが残されていた。
「生命の魔女かどうかは分からんが、魔女が住んでおったのは間違いないのう。どこにいったか手掛かりはないものか」
俺たちは小屋の中を捜索した。
若干抵抗はあるが、タンスの中や棚の中も隅から隅まで探した。
メクはわしに呪いをかけたやつに対する礼儀などない、と全く遠慮なしで部屋の中をあさっていた。
「……これは」
「どうした?」
メクが何かを発見したようなので、俺はそれを見に行く。
一枚の紙を見つけたようだ。
それにはこの世界の地図が描かれていた。
「これを見よ。丸で印がついておる」
「本当だ。『次の目的地』っても書いてあるぞ。ここにいるのかな?」
「目的地と書いてあるだけじゃから、分からんが……ほかに手掛かりもないのなら、ここにいくしかないじゃろうな。しかし、ここはテンノース山か……」
「テンノース山?」
「印が入っている場所がちょうどテンノース山と呼ばれる山がある場所なのじゃ。この山は結構有名な山じゃ。世界で二番目に高い山として知られておる。場所はハルカード帝国にあったはずじゃ。龍人どもの帝国じゃな。世界最大の国としても知られる。この国とは隣接しており、かなり仲が悪かったと記憶しておるのう。今は休戦中じゃったが、戦は何度も起こっておる」
龍人とは、龍の翼と尻尾、角が生えている種族だ。
リザードマンとは根本的に違い、リザードマン扱いされるとブチ切れることがあるらしい。俺も何度か見たことはある。
隣接しているのならそんなに遠くはないかもしれないが、また別の場所に行かないといけないとは面倒だな。
何かこの調子でたらい回しにされそうな予感を感じてしまう。
「とにかくここに行ってみるかのう」
もうすでにいない可能性も十分あり得るが、ほかに手掛かりもない。
次の目的地はテンノース山に決定した。
〇
早速森を出てハルカード帝国へと向かう。
隣の国なので、そこまで遠くはなかった。数日歩いていたら到着した。
クレンフォス王国との国境付近にある、小規模な町に立ち寄った。
アルメイクという町らしい。
町に入ると、龍人の国らしく龍人だらけであった。
ただ町民の俺たちを見る目はあまり良くない。
特に獣人であるレーニャは嫌われているようで、露骨に嫌そうな視線を向けられていた。現在は戦をしていないようなので、一応入ることは問題ないようだったが。
テンノース山は有名な山であるが、メクも詳しい場所までは知らないという。
まずはここでテンノース山の場所を尋ねるとしよう。
ただ、獣人のレーニャだけでなく人間の俺もあまり好ましく思われていないようで、結構無視される。
五人目くらいでようやく口を聞いてくれる龍人と出会った。
「あ? テンノース山? あんなところに人間と獣人が何の用だ」
話を聞いてくれるといっても、かなり険悪な感じなのだが。
無視よりは遥かにましだ。
「人を探していて………」
「テンノース山は帝国の一番北の方にあるが……はっきり言って危険だ。ドラゴンが住んでるからな。まあ、人間と獣人がどうなろうと俺の知ったことではないがな」
「北と言っても分かりにくいので、もっと詳細な場所を教えてくれないか?」
「めんどくせーよそんなの。北に行きゃ山が見えっから、そこ目指してあるけばいいだろ」
そんな適当な方法でたどり着くのか?
「距離はどのくらい?」
「歩きだと二十日はかかるぞ」
二十日か。
まあ、俺たちならもっと早く行けるだろうが……それでも十日はかかるか?
少し路銀が厳しくなってきている。
十日間移動するには、今の金額では足りないだろう。
金を稼がなければならない。
この国に冒険者ギルドがあるかは知らないが、この感じだと俺が登録すること
は不可能だろう。
魔物を倒して、その素材を売るというのが一番いい方法か?
買い取ってくれるかどうかだが……一応、この町で食料は買えたので(店の人の愛想はめっちゃ悪かったが)売るのも問題はないと思う。
今までは【死体吸収】が使えないので、素材を売るというは避けていたが、この際仕方ないな。
とりあえず今日は宿を探すとしよう。
日が沈みだしてきたからな。
てか宿には泊まれるのか?
確認してみよう。
最初の宿には獣人お断りと書いてあった。無理そうである。
次の宿にも行ってみたが、ここも獣人お断りの看板が。
「何だか申し訳ない気分だにゃ」
「レーニャが謝ることじゃない」
「この町は本当に獣人を嫌っているようじゃのう。まあ、長い間戦争をしておったようじゃし、無理もないと言えば無理もないが……レーニャはケットシーであるが、クレンフォス国民ではないのに理不尽じゃのう」
何軒か見て、ようやく獣人お断りじゃない宿を発見する。
宿に入るといい顔はされず、恐らく少し割高に宿泊費を取られたが、泊まることが出来た。
「とにかく路銀がもうつきそうだ。かなり高く取られたし。一旦この町で金を稼ごう」
「まあ、あまり長くは留まりたくない町じゃが、今は仕方あるまいな」
あまり住民からいい目で見られないので、さっさと出ていきたいのはやまやまなんだけどな。
俺たちも強くなったし、路銀を稼ぐくらいは恐らくそんなに時間はかからないと思う。
それから、夜になり俺たちは眠りについた。
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