18.勝利後

2020年12月20日

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 リーザースを倒した。
 トドメを刺す前に誰から俺を殺すように言われたのか、聞き出しておけば良かった。忘れてしまっていた。後悔してももう遅いが。

「テ、テツヤ……倒したのか……?」

 メクが呆然と呟いた。

「心配かけてすまない」
「い、いや、敵が強くなったと思ったら、お主もいきなり強くなって……何が何やら……お主その右腕……」

 メクが右腕を見て何かを発見したようだ。俺も右腕を確認する。右腕全体に複雑な黒い模様が刻まれていた。刻印の効果を高めたためこうなっているのだろう。
 粋がった若者が入れている、入れ墨みたいな感じになっていて、あまり気分は良くない。

「刻印の力で強くなったのか……? お主、大丈夫か?」
「今の所は何ともない。事情は後で話す。それよりレーニャは?」
「ダメージを受けて、気を失っているようじゃが、命に別状はないじゃろう。早く帰って治療して貰おう」
「そうだな」

 帰る前に、リーザースの死体を吸収した。

 HP155上昇、MP123上昇、攻撃力43上昇、防御力33上昇、速さ32上昇、スキルポイント22獲得。
 スキル【解放リリースLv1】獲得。
 スキル【闇爆ダーク・ブラストLv3】獲得。

 スキルを二つ獲得した。目を見えなくするスキルは獲得できなかったな。全部獲得できるわけではないのか。
 出来れば【解放Lv1】より目の見えなくする奴の方が、欲しかった。正直、使用用途がよく分からん。

 あとステータスの上がりが、かなりすごくなっている。
 ただ、これでも最初会った龍ほど上がっていない。
 あいつどんだけ強かったんだよ。

 死体を吸収した後、町に戻った。

 ○

 まず、レーニャを町にいるヒーラーに回復してもらった。
 回復は魔法でなくスキルでしか出来ないらしい。ヒールのスキル石も結構レアだ。なのでかなりヒーラーは人気で、若干時間がかかった上、金も結構取られた。
 もしかしたら、自由都市まで行く金が足り無くなったかもしれない。まあ、そうなったらまた稼げばいいか。

 お陰でレーニャは元気になった。体は元気になったが、やられたのが悔しかったのか、少し落ち込んでいる。

 レーニャを回復した後、冒険者ギルドにキノコを届けに行った。

「お前らなら楽勝の依頼だったな」

 と受付が言ってきたので、

「いや、めちゃくちゃ強い敵が出て大変だったんだが」
「あ? どういうことだそりゃ」

 受付の男が聞いてきた。俺は違和感を持つ。
 戦闘の記録とやらが保存されていると、以前説明された。
 俺たちが、リーザースと戦ったことをギルドの連中が知らないはずがない。

 俺は事情を話すと、受付の男が、

「ちょっと待ってろ、調べてくる」

 と言って、奥に行く。数分待たされて、

「おかしいな。そんな記録残されていなかったぞ」
「は? 待て待て、たしかに俺は強い悪魔と戦ったぞ」
「うーん……悪魔となれば、魔具の観測をごまかすスキルでも使っているかもしれんが……本来イレギュラーな強敵と出くわした場合、補償金を支払う事になっているが、証拠がないからなぁ。すまないが、前から決まっていた報酬だけ受け取ってくれ」

 何とも納得のいかないことを言われて、元々きのこ収集分の報酬だけを渡された。

 一応食い下がってみたが、最終的に俺は諦めた。

 なんと運の悪い。

 そう言えばあの占い師、信用出来ない奴みたいだったな。俺のどこが運がいいんだよ。最悪だよ今日の運勢は。異世界でも占いは信じないようにしよう。

 その後、市場で余分にとったきのこを売った。結構高く売れた。レーニャの治療代とほぼ同じくらいの値段になった。これなら、金が足らなくならないか。
 その後、俺たちは宿に入り疲れを癒した。

「それにしても散々な日じゃったな。あの占い師は、信用出来ぬものだったみたいじゃの」
「だよな。もう占いは信じない」
「当たる者も一応おるにはおるぞ」

 メクはそう言うけど、やっぱ信じることはないだろう、

「にゃー……今日は師匠とテツヤに迷惑をかけたにゃん……」

 レーニャは相変わらず落ち込んでいる。

「落ち込むなレーニャよ。今回は相手が悪かったのじゃ」
「にゃー……」
「やられたことを恥じるなら、もっと強くならねばな。落ち込んでおっても強くはなれんぞ」
「にゃー……そうにゃ……もっと強くならないといけなにゃ……よし決めたにゃ!」

 レーニャは何か決心したように叫ぶ。

「修行するにゃ! まずは外を少し走ってくるにゃ!」

 と言って、一人で宿から出て走りに行った。
 俺は心配になり、

「だ、大丈夫か?」
「外で走るくらい大丈夫じゃろ。心配しすぎじゃ」

 と呆れたような声で言われた。レーニャを一人にするのは、少し心配なのだが、過保護すぎただろうか。

「それで? なぜお主はあの時強くなったのじゃ?」
「それは……」

 俺はメクに事情を話した。

「ふむ……深淵(アビス)とな……」

 メクは少し考え込んで、

「すまぬ、全く見当が付かんのう」
「そうか」
「もしかしたら、悪魔の一種かもしれんのう」
「悪魔? あのグレーターデーモンのような奴か?」
「そうじゃな。奴らは魂もしくは、体の一部を対価として払うことで、力を貸す。お主もなんの対価もなく、力を貸して貰ったとは思わぬことじゃ」

 俺も何かそのうち高い代償を払わなければならないような、そんな予感はしていた。

「よいか、今後どんな場面になろうと、その深淵とやらから力を借りるな。もしかしたら、取り返しの付かない事態になるかもしれぬ。今はまだ何も起こってないからいいがのう」

 メクから忠告を受けた。
 まあ、この刻印が刻まれている限り、奴から力を借りているということになるのだが。
 これ以上、この刻印の力を増大してやる、みたいな話をされても受けないようにした方がいいか。
 ……ただ、今回のように絶体絶命の状況になったら……その時は……奴の力を借りる必要があるがな……
 絶対にそういう状況にならないよう、俺ももう少し強くならないといけないな。

「それで話は変わるのじゃが、お主があのグレーターデーモンを吸収した時、なんのスキルを手に入れた?」
「ん? 【闇爆】と【解放】だけど、それが?」
「おお、【解放】を獲得したのか! そのスキルについて詳しく知らんのだが、奴は自分の力を出す時、制約から解放するスキルと言っておったよな。もしかしてそのスキルをわしにかければ、一定時間呪いから解放されでもするかもしれぬ、と思ったのじゃ。呪いも制約といえば制約じゃからのう」
「そうか……でも、これって他人にかけられるのか?」
「分からぬ。とりあえず試してみてくれ」

 試せと言われてもどうすればいいんだろう。
 とりあえず、メクにかかれって念じながら【解放】を使えばいいのか?
 試してみると、

「うお!」

 メクの体がいきなり輝き出す。びっくりして俺は声を上げた。
 なお光は強くなり、目を開けていられなくなる。俺は目を閉じて手のひらで光を遮る。

 数秒経過、光が弱まり、俺は目を開ける。

 すると目の前に、見慣れぬ美女がいた。
 金色の髪と、魅入ってしまうほど美しい顔。
 スタイルは抜群に良く、男の俺と同じくらい背が高い。
 緑色の綺麗なドレスを身につけている。
 耳がトンガっているため、エルフである。

 いきなり部屋に現れたので、俺は混乱する。
 5秒ほど経って、

「もしかして、メク……か?」

 冷静に考えたら、メク以外ありえない。ただいきなり現れたから、なにがなんだか分からなくなっていた。

「……も、戻ったのか……?」

 元に姿に戻ったメクは自分の手や体を確認して、

「おお! 戻った! 懐かしき体じゃ!」

 と歓喜の声を上げた。

「ほ、本当に生身の体じゃ……! 昔のままではないか……!」

 メクは自分の姿を確認するため、宿に備え付けられていた鏡を見る。食い入るように自分の姿を見ていた。

 しかし、本当に元の姿に戻るとは……かなり驚いた。
 だが、それ以上に驚いたのはメクの外見だ。

 正直、今まで生きてきて、メク以上に美人な女性は見た事がない。
 メクが美人すぎて俺は少し困る。

 というのも、レーニャは子供っぽいし、ぬいぐるみ姿のメクは、ぬいぐるみだしで、あまり女性として意識しておらず、特に接する時も緊張することはなかった。だが、今のメクは大人っぽい美人で、正直好みのタイプだし、ここまで美人となると、否が応でも緊張してしまう。

 徐々にドキドキと心臓の鼓動が高鳴る。だ、駄目だ。メクは仲間じゃないか、普通に接しないと。

「テツヤ」

 鏡を見終わったメクが、俺の元に近づいて声をかけてくる。たったそれだけで、ドキッとしてしまう。

「礼を言うぞ、一定時間だけだろうが、お主のおかげで久しぶりに自分の姿を見ることが来た」

 メクはお礼を言いながら、俺の両手を掴んで来た。
 いきなり手を掴まれて俺は混乱して言葉を喪う。

「これが人の温もりか……温かいのう……」

 メクがシミジミとそう呟いているのを見て、俺は少し平静を取り戻した。

 そうか、ずっとぬいぐるみだったからな……人と触れ合うのも久しぶりになるよな……

 そう思っていると、今度はメクが俺に抱きついてきた。

 なっ!?
 
 平静を取り戻した頭が再び混乱する。
 メクの柔らかい感触を体全体で感じ、女の子のいい香りが俺の鼻孔を刺激する。

「ちょ……ちょ! メ、メク!? な、何して……!」
「何って……体全体で誰かの温もりを感じたかったのじゃが、嫌じゃったか?」
「い、いや、嫌というわけじゃないけどさ。ほら、あれだろ!」
「ああ、そうか」

 メクはそう言って、俺から離れる。

「わしとテツヤは、男と女じゃったのう。ずっとあの体じゃったから、完全に忘れておったわい」

 そういうことか。はぁー心臓が止まるかと思った。顔がすごく熱い。

「お主、顔が赤いのう」

 メクは俺の顔を見た後、そう言う。
 すると、なにかを思いついたような表情をした後、

「テツヤ。わしを元に戻してくれた礼をくれてやろう。わしのことをしばらく好きにしてよいぞ……」

 と襟に手をかけ、胸元を見せるような仕草をしながらそう言ってきた。

「な、なんですと!?」

 好きにしていいって、あれか? なんでもしていいの? エロいことも? いやいやダメでしょ。メクは仲間じゃないか。そんな目で見たら駄目でしょ。

 しかし、メクの胸は言ってしまえば、巨乳という奴で。
 正直、男としては触りたいわけで。揉みしだきたいわけで。

 俺が慌てに慌てながら、そう思考を張り巡らせていると、メクがくくく、と笑い出し、

「冗談じゃよ。テツヤはからかい甲斐がある奴じゃのう」

 と言ってた来た。どうやら完全にからかわれていたようだ。

「そこまで動揺するかのう。まあ、わしはエルフいちの美女と呼ばれた女なので、仕方ないかのう」

 さりげなく自慢してくるし。なんか悔しくなってきた。
 まあ、なにも言い返せないけど。

 俺は少しむくれた表情で、

「俺をからかうより先に、やることがあるんじゃないか?
 飯食うとかさ」
「そうじゃのう! まずは何か食べてみたいのう! 早速行ってくる!」

 メクは急いで、何か食べに行くため、部屋を出ようとする。
 すると、ピカッとメクの体が光り輝く。眩しかったので、俺は目を塞ぐ。
 光が弱くなり、目を開けると、メクの姿がない。いや、あった。視界の下の方に、ぬいぐるみになったメクがいた。

「戻ってしまったではないか!」
「2分くらいしか元に戻れないのか」
「もう一回使ってくれ! せっかく何か食べられると思ったのに!」

 俺の足にしがみついてきて、メクが懇願してくる。

 俺はもう一度使おうとするが、

『スキル【解放(リリース)】は現在、使用不可能です。71時間57分後、再び試してみてください」

 と声が頭に響いた。

「無理っぽい」
「なんでじゃ!?」
「一回使ったら、3日間使用不可になるっぽい」
「なんじゃと!? 3日!」

 メクは少し落ち込んで、

「ぬう、テツヤと触れ合った後、いじっただけで終わってしまった……そんな事より優先すべき事があったのに……」
「おい、その言い方はどうなんだ?」

 そんな事ってなんだ、そんな事って。

「そういえば、【解放(リリース)】にはレベルがあるから、スキルポイントを上げれば、一回で元に戻れる時間も長くなるかもしれないな」
「む、レベルがあったのか。さっそく上げてくれ!」

 一応スキルポイントに余りはあるし、上げようとするが、

『【解放(リリース)】を上げるには150ポイント必要です』

 と言われた。そんなにあるわけない。

「無理だった。150ポイント必要だって」
「150ポイントも? スキルレベルは何なのじゃ?」
「1だ」
「1から2に上げるのに、そんなにかかるのか……ぬう、難しいのう。お主もほかのスキルを上げて強くなりたいじゃろうし……そこまで頼むのは、わがまま過ぎるかのう」
「別に俺はいいけど」
「いや、やはりよい。結局何処まで上げても、時間制限はあるじゃろうしな。あまり、元に戻れる時間が長すぎると、呪いを解こうという気が薄れてくる可能性がある。それはよくない」
「そうか」
「じゃが、とにかく一定時間だけでも戻れるようになったのは、非常に良い事じゃ。お主のおかげじゃ。改めて礼を言おう」

 メクは頭を下げて、礼を言ってきた。

「仲間だから礼を言う必要は無いよ」
「そうか。それにしてもこの姿になったら、お主、いつも通りに戻ったな」
「うっ」
「よっぽど、元の姿のわしといるときは緊張したのかの? くくく、顔を赤くしたテツヤは可愛かったのう」

 メクがからかってきた。

「もう【解放(リリース)】使ってやらんぞ」
「うっ! わ、悪かった。もうからかわぬよ」

 俺達がそんなやり取りをしていると、

「ただいま帰ったにゃー! 疲れたにゃー」

 レーニャが帰ってきた。

「おお! レーニャ帰ってきたか! 実はな!」

 メクが嬉しそうに、元の姿に戻った事を話すと、

「えー! 師匠が元に戻ったのにゃ!? 見たかったにゃ! なんでアタシがいない時にやるにゃ!」

 とレーニャは怒り出した。

「む、それは元に戻るか分からんかったからのう……」
「今もとに戻れないにゃ?」
「3日後じゃないと無理だ」
「えー!」

 タイミング悪くメクの元の姿を見逃したレーニャは、残念そうに唸った。


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