15.占い

2020年12月20日

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 俺達はサマキ洞窟に向かう途中、近くに町があったので、いったんその町に寄る。
 町の名前はサマキという。サマキ洞窟はこの町の近くにあるから、その名前がついたらしい。

 町では昼飯を食べた。
 少し高めの料理があり、レーニャがそれを食べたいとねだったが、今は無駄に金を使ってはいけないので、安めの料理を食べる事にした。

「うにゃー。高級牛肉のステーキ食べたかったにゃー……」

 レーニャがむくれながら唸る。

「今度金が貯まったら、食べられるから……それに、今日の昼飯の鶏肉もおいしかったろ?」
「うにゃー。おいしかったけど……絶対あとで食べさせてにゃー」

 最初は簡単なスープを食べただけで満足していたが、レーニャは若干グルメになったようだ。

「じゃあ、飯も食ったし行くかー」
「わしはいつでもよいぞ。キノコ集めならわしでも手伝えるからいいのー」
「行くにゃー」

 三人でサマキ洞窟まで向かおうとすると、

「そこの人待ちなされ!」

 といきなり横から、老婆が大声が聞こえた。

「な、何だ?」

 俺はびっくりして、歩を止め、声の聞こえたほうに視線を向ける。

 黒いローブを羽織った老婆が、路上に座っていた。彼女の前には、透明な水晶玉が置かれている。

 占い師のようだな。誰に待てって言ったんだ? 

「そこの人じゃ、そこの人! こっちに来るのじゃ!」

 老婆は俺の方に向かって、手招きをしながらそう叫ぶ。

 誰か後ろにいるのか? 振り返って確認するがいない。

「お主に来いと言っているのでは?」
「俺? あの婆さんって占い師なのか?」
「恐らくそうじゃろう」

 やっぱ占い師なのか。

 確かに俺以外いないけど……

 困った俺は、占いとか全く持って信じないタイプなんだが。

「早く来ぬか! 何をしておる!」

 怒りの形相を浮かべながら、老婆は叫ぶ。

 こ、こえー。
 行っとくか……
 異世界の占いだしな。結構当たるかもしれないし。

「ちょっと行ってくる……」

 レーニャと、メクに断りをいれ、老婆に近づき、

「あの、なんでしょうか……」

 と声をかけた。

「お主から、なにやら変わったオーラを感じた。特別に無料で占ってやろう」
「は、はぁ?」

 何だ特殊なオーラって……? 
 この世界の住人じゃないからか?

「わしの目を見ろ」

 占い師の婆さんが、パチリと目を大きく開け、俺を凝視して来た。
 言われたとおり俺は老婆の目を見る。

 占い師の老婆は、俺の目を見返しながら、水晶に手をかざして、なにやらわけのわからない言葉を呟いている。

 30秒ぐらい老婆の目を見続けると、突如老婆が目を閉じた。

 もう良いかな? と思い俺も瞬きをする。

 占い師の婆さんは、今度は水晶玉を見て、

「ふむふむ……なるほどのう……お主の運勢を占ったぞ」
「はぁー。どうだったんですか?」
「そうじゃのう。今日はあまり運勢が良くないのう。家で大人しくしとったほうがええぞ」

 えー? 今から依頼に行こうと思っていたのに。

「逆に明日じゃが、かなり幸運な出来事があるようじゃ。何かするなら明日にしといたほうがええのう」
「そ、そうなんですか……幸運な出来事」
「ちなみにわしの占いは、ほぼほぼ当たる。言う通りにしておいたほうがええぞ」
「そうですか……」

 うーんどうしようか。占いは信じないけど、でも異世界の占いだしなぁ。
 まあ、今日絶対に依頼を達成しなくてはならない、というわけでもないから、念のため明日にしておこうかな?

 あと、一応聞いておかないと行けないことがある。

「あのー、そういえばオーラがあるとか言ってましたが、どういう意味ですか?」
「お主から薄っすらとだが、何かとてつもなく不吉なオーラが見えたのじゃ。下手したら数年のうちに死ぬから、可哀想じゃと思って、占ってやったのじゃ」
「ええ!? なんですかそれ!」

 数年のうちに死ぬって。

「もしかしたら、何かに取り憑かれておるかもしれんのう」
「取り憑かれている……?」

 そう言われて、頭に思い浮かんだのは、黒騎士から刻まれた刻印だ。
 不吉なオーラとは、俺が異世界人だからではなく、黒騎士に刻印を刻まれたから、見えるようになっているのかもしれない。

 そうだ、このお婆さんに、刻印を見せてみよう。

「あのー、不吉なオーラとやらに、一応心当たりがあるんですけど……これ見てください」

 俺は右手に刻まれた刻印を、老婆に見せた。

「こ…………これは!?」

 なんだ知っているのか!?

「初めて見る刻印じゃな。なんじゃろうか?」

 知らんのかい! 思わせぶりな言い方やめてくれ!

「じゃが、一つだけ言えることは、間違いなく、良いものではないという事じゃな。気を付けるのだぞ」

 そう忠告された。
 今のところは、この刻印が刻まれたことで、発生した問題はない。
 逆に死体吸収の効果が高まったりと、メリットがあるくらいではあるが、やはり俺の直感通り今後これが刻まれたことで、何か問題が起こるのだろうか?

 ……まあ、この婆さんも話を信用しすぎるのもあれか。
 さっき会ったばかりで、信用できる人かも分からないしな。

 でも、一応心には留めておこう。

「ありがとうございました」
「気をつけるんじゃぞ」

 俺は占い師のもとを離れ、レーニャとメクのもとへ戻った。

「なんて言われたのじゃ?」
「今日は運勢が良くなくて、明日はいいらしい」
「ふむ」
「にゃー、だったら明日行くにゃー?」
「占い師は信用できる者と出来ぬ者がおるからのう。あと、多少運が悪かろうが、依頼を達成することは出来ると思うがのう。まあ、お主が決めてよいぞ」

 俺に判断は任された。
 確かに運が悪くても依頼は達成できる。
 ただ、俺は今日運が悪いということより、明日は運がいいというところが、気になっていた。

 もしかしたら、宝が見つかったりするんじゃないだろうか?

 あの占い師の婆さんの信用度はこの際、考えないでおこう。仮に外れても特に損はないからな。

「今日は一泊して、明日依頼に行こうか」

 と俺は決めた。

 翌日、俺たちはサマキ洞窟に向かった。

 サマキの町から数分歩いた所に洞窟はあった。
 中に入る。薄暗いため、魔法を使って光を灯す。

 目的はサマキキノコの収穫。

 サマキキノコは、低級魔力ポーションの材料になるため、結構需要が高い。
 不思議と魔物が多くいる危険な場所にしか生えないので、よく冒険者ギルドの依頼が出されるようだ。

「キノコはどこにあるにゃん?」

 レーニャがキョロキョロと、洞窟内を見回しながら尋ねてきた。

「奥の方にあるらしいから、この辺にはないよ」
「そうだったのにゃー」

 レーニャは探すのをやめる。

 とそこで、魔物が出てきた。

 コボルド、犬の姿の魔物だ。強さはゴブリンとほぼ互角。つまり雑魚だ。
 3体出てきた。飛びかかって来たので、俺は剣を抜きあっさりと斬り殺す。

 この依頼のランクはD。
 あまり難しい依頼ではない。
 まあ、コボルドはこの洞窟では最弱の敵だろうけど、1番強い奴でも、それほど強いのは出てこないだろうな。

 コボルドの死体を吸収。
 三体で、

 MP6上昇、攻撃力6上昇、速さ6上昇、スキルポイント6獲得。

 HPと防御力は相変わらず上がらない。
 今度は依頼と関係なしに、一回そこそこの難易度の場所に行って、強い魔物を倒してみて、強い魔物なら上がるかどうか試してみたいな。

 俺たちは奥に進む。思ったより魔物は少なく、最初の三体以降、倒した魔物はスライム2体だけだ。

「だいぶ奥まで来たのう。そろそろキノコがあるかもしれん」

 メクがそう言って来た。

「そうだな。こっからは探しながら歩くか」

 俺たちは周りを注視しながら歩く。

 すると、俺は何かが埋まっているのを発見する。
 キノコか? いや、違う……箱みたいな……

 掘り起こしてみると、

「これ、宝箱か?」

 宝の入ってそうな箱が掘り起こされた。

「ぬ? 確かに宝箱のように見えるが、ミミックの可能性もあるのう。慎重に開けるのじゃ」
「分かった」
「何が入ってるのかにゃー」

 俺は箱を開けようとする。
 鍵がかかっているな。

「鍵がかかってるなら本物かものう。力尽くで開けられるか?」
「試してみる」

 俺は力を込めて宝箱を開けようとする。

 俺は力を込めて開けると、ガシャン! と壊れたような音がして、宝箱が開いた。

 中には赤い色の宝石みたいなのが入っていた。

「これなんだろ? 高いのかな?」
「スキル石じゃな。なんのスキルかは見ただけでは分からぬが」
「スキル石って?」
「スキル石を持って、スキル習得と念じれば、習得に必要なスキルポイントがある場合、スキルを獲得できるのじゃ。石によって獲得出来るスキルは違っておる。こうやって宝箱から発掘したり、魔物を倒す事で稀に入手出来るのじゃ。もっとも弱い魔物からは入手できんがの。有用なスキルを習得できるスキル石は高値で取引されておる。もっとも、そういうスキルは自分で習得すべきだとわしは思うがのう」

 本来、スキル習得はこの石を使って行うみたいだ。

 前から聞きたかった疑問が晴れたな。

「せっかくだし売らずに習得してみるか。俺は死体吸収があるからスキルの習得は割と簡単にできるし、メクかレーニャが習得してよ」
「わしはこの体でスキル習得などできん。レーニャが習得するのじゃ。お主、持っているスキルほとんどなかったじゃろ」
「いいのにゃー?」
「うん、レーニャが強くなるのは、俺としても心強いしな」
「分かったにゃー、ありがとにゃー」

 俺はスキル石をレーニャに渡す。

 レーニャはスキル石を持って、しばらくの間、目を瞑る。
 そして、石がパッ! と眩しく光ったと思ったら、石はいつの間にか消えていた。
 スキルを習得したら消えるのだろうか?

「ちゃんと習得できたか?」
「にゃん! ふぃじかるあっぷ? とかってスキルだった」
「【肉体強化(フィジカル・アップ)】か。なかなか良いスキルじゃな。お主の戦闘スタイルとも、あっておるし。宝箱を見つけられて運が良かったの」
「あの占い師の言うこと聞いてよかったな」

 あの占い師は結構信用できる占い師だったかもしれない。
 まあ、そうなると、それはそれで、俺の右手の刻印に対する不安が高まるが……

「さて、きのこ探し再開しよう」

 俺たちはきのこ探しを再開した。

「あったにゃー」

 レーニャがサマキキノコを見つけて、収穫し持って来た。
 結構簡単に見つかったな。

 サマキキノコとよく似た猛毒のキノコがあるらしいから、鑑定しておく。
 結果、確かにサマキキノコだった。

 それから、収穫を続ける。

 たまに猛毒のキノコがまじってはいたが、生えている量が多かったので、結構簡単に集まった。
 依頼の量は30本で、その数はすぐ集まったのだが、思ったより早く集まったので、それ以上収穫することにした。

 全部で50本収穫。
 30本は依頼で渡して、あとは普通に売ろう。

「集め終わったし、帰るか」
「うにゃー」
「そうじゃな」

 俺たちは洞窟の出口に向かって歩き出し、出口付近まで来た。

 その時、

「!」

 出口付近に何かがいる。

 見たことのない……恐らく魔物だ。

 二足歩行をしており、人型。
 色は全身が赤黒い。
 潜在的な恐怖を煽るような顔、鋭い爪の生えた手、そして、背中には大きな羽が生えている。

 まるで悪魔のような外見をした魔物が、洞窟の入り口を塞ぐように佇んでいた。

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