11.地下闘技場
メーストスの町に着いた。
不思議な雰囲気の町だ。
俺の想像していた、異世界の町とは少し違う。
西洋風の家もあるのだが、見たことの無い変わった感じの建物もある。
町を歩いている人たちは、耳がとんがっているエルフがいたり、レーニャと同じく獣人がいたり、人間がいたり、角が生えた鬼みたいな者もいたりと、とにかく多種多様だ。
そのせいか、動き回っているぬいぐるみであるメクも、特にめずらしいと思われていないようで、皆スルーしている。
とにかく、町には着いた。着いたはいいのだが。
「さて、町に着いた……が、何をやるにしても、我々には金が足りておらん」
「つーか無一文だしな」
そう、俺達は一切金を所持していなかった。
当然の話だが、金が無ければ飯も食えなければ、住む場所もない。
俺の右手に刻まれた、正体不明の刻印のことを知るのにも、金は必要だろう。
「お金ないと、ご飯食べれにゃいにゃ?」
「当然」
「うにゃ~」
レーニャが悲しげな目で俺を見る。
うーん、どうにかして稼がないと。
「金を簡単に稼ぐ方法ってなんだ? 冒険者になるとか?」
「冒険者か……悪くは無いが、今すぐ金を得るには少し時間がかかる。ダンジョンに行って魔物を倒したりせねばならんからのう。今日の宿泊費や、食費を稼ぎたいところじゃろ? まあ、わしは、何も食わんでもいいし」
そうだな。もう少し簡単に稼げる方法がいいな。
俺は何かないかな? と周りを少し見回してみる。
すると、
「あれは……」
俺は近くにある建物の看板に目をつけた。
地下闘技場、飛び入り自由、勝者には賞金1000ゴールド。
看板にはそう書かれていた。
「メク、地下闘技場ってのがあるんだけど」
「ぬ? ああ、あれなら今すぐ、金を稼げそうじゃが……ただ、参加費用がかかるのではないかの? あの手のものには、あまり詳しくないので分からぬが」
「そうか……1回入って聞いてみるか」
俺は、建物の中に入った。
中にはスキンヘッドのコワモテの男が、受付をやっていた。
「見ない顔だな。飛び入り希望者か?」
「そうです」
「参加費用は200Gだ」
やっぱり金がいるのか。
少し残念がっていると、そんな俺の態度を見て金が無いのを察したのか、受付の男は、
「金が無い場合は、自分の体を賭けてもらう」
と言ってきた?
体って? なんかやばそうだな……
奴隷にされるって意味か?
まあ、勝てばいいんだけど……負けるのは……
少し悩んでいると、
「お主のステータスなら、負ける事はまずないじゃろう。受けるべきじゃな」
メクがそう言ってきた。
「本当か?」
「ああ、間違いない」
メクが言うのなら、間違ってはいないかな。
「アタシも戦うにゃ!」
とレーニャがやる気を出すように、ファイティングポーズを取る。
「待て待て、お主の場合は万が一負ける可能性がある。今回はやめておけ」
「にゃー」
メクがそう言って参加を止める。
俺としても心配なんで、レーニャは今回は見ていてほしい。
「そういえば1000ゴールドって、どのくらいの価値なんだ?」
「お主なぜその程度の事も知らんのじゃ。世間知らずなのか? 1000ゴールドあれば、1人なら20日は生きるのに不自由しないぞ」
「じゃあ、3人だから7日は生きていけるか」
「待て待て、わしは飯を食わんでいいぶん、お主らより金はかからん。宿泊費はかかるかもしれんがな」
「あ、そっか」
とりあえず、それだけあれば十分だな。
俺は受付の親父に
「俺、参加します」
と言った。
「残りは?」
「あ、不参加です」
「兄ちゃんだけか……分かった、入れ」
「観戦は出来るのかの?」
メクが尋ねた。
「ん? 見るだけならタダだぜ、参加者と見物客は入り口が違うから、こっちから入れ」
「分かったのじゃ」
俺と、メク、レーニャは、別の階段で地下に降りた。
〇
参加を決めた後、名前などを聞かれ、俺はテツヤ・タカハシと普通に答えた。
その後、ルール説明をされた。
地下闘技場での戦闘のルールは4人で乱闘をし、最後に立っていたものの勝ち。
勝ったものに賞金1000ゴールドが入ってくる。
殺しても問題ない。とにかく、戦闘継続が不可能な状態に相手を追い込めばいい。
それと、参ったと一言いえば戦闘継続の意思なしと判断され、その時点で負けとなる。
勝てる見込みのない場合は、自分の命を守るため参ったと言え、と忠告された。
9割くらいは、参ったと言ったものには攻撃してこないらしい。
逆に1割は攻撃してくるのかよと俺は思ったが。
そして、案内されて控え室に行く。
特に着替えなどはせず、このまま出ていいらしい。
時間が来たら合図をするから、その時まで待っていろと言われる。
それで数分経ち。
「おい、出てこい!」
と合図があり、俺は出口を出て闘技場に出た。
そこそこ広い空間だ。
鉄格子で囲まれており、そこから観客たちが見ていた。
レーニャとメクの姿を発見。レーニャが手を振ってきたので、俺は振り返した。
対戦相手の3人が出てきている。
全員男。
狼の耳が生えたかなり毛深い獣人。
普通の人間より一回りもふた回りもでかいやつ、多分巨人かなこいつは?
それと人間の男がいるが、こいつはあまり強そうではない。
巨人が正直強そうだけど、ジャイアントゴーレムに比べると、大きくはないし。
とりあえず、全員鑑定しておくか。
まず狼の獣人から鑑定、
『ライカンスロープ 個体名:バルガス 28歳 Lv.27/27
狼の獣人。弱るとただの狼になる』
続いて、巨人の男。
『ジャイアント 個体名:グーヴァ・サヴェルヴィン 44歳 Lv.23/24
巨大な種族。パワーは桁外れに高い』
最後に人間の男。
『人間 個体名:サーメル・エスリン 24歳 Lv.30/30
頭が良く魔力が豊富な種族』
人間の男が1番レベルが高いのか。
まあでも、めっちゃレベルが高いやつはいないか。
レベルはあくまで目安だから、実際どれくらい強いかは不明だけど。
限界レベルとレベルの差が、野生の魔物たちより少ないな。
野生の魔物たちは知恵がないから、効率よくレベルを上げるということが出来ないのだろう。
「お前見ねぇ顔だな」
ライカンスロープの男が、そう言ってきた。
「人間カ。弱そうだナ」
今度は巨人の男が、ニヤッと笑みを浮かべながら言ってきた。
あんまりいい奴らではなさそうだな。
まあ、その方が変に遠慮せずに戦えるから、いいけど。
そう思っていると、
「……待て……こいつ限界レベル1じゃねーか!」
人間のおとこが俺を見ながらそう言ってきた。
なんだ? 知らぬ間にレベルでも見られたのか?
男の声に、ほかの2人の対戦相手と、観客が驚き、ざわざわとし始める。
最初は、限界レベル1で戦いに出るなんて、命知らずな真似するわけないだろう、みたいな感じの声が大きかったが、
「ほんとだ……本当に限界レベル1だあいつ」
と、観客からも俺の限界レベルを見たものが、何人か出てきはじめる。
何を使っているのかは知らんが、限界レベルって簡単に見れるのか、その割には受付の時に調べられなかったな。
俺の限界レベルが1だと信じ始めてきた、観客も対戦相手も、マジかよこいつ……みたいな若干引き気味の表情で俺を見てきた。
そして、表情が変わりはじめ、
「はははははは! マジかよあいつ! 限界レベル1!?」
「ゴミクズじゃねーか! マジで出るのか!?」
「ははは、さっさと、逃げた方がいいぞー!」
と俺を嘲笑うような声が、観客と対戦相手から次々と上がってきた。
限界レベル1ってのは、だいぶ嘲笑の対象になっているんだな。
たぶん、この世界の人々は、他人のステータスはそう簡単に見れないから、簡単に見れるレベルで、相手の強さを全て判断しているんだと思う。
それで、レベルが低すぎるもので、強いものってのはまずいないから、こうやって嘲笑われているんだろうなぁ。
まあ、笑い声は、若干不快ではあるが、敵がものすごく油断しているようなので、良しとするか。
「オイお前、すぐ降参した方がいいゾ? 俺は手加減ができん男だからナァ」
巨人の男がニヤニヤと、俺を思い切り見下すような目で、そう警告してきた。
「そうそう。俺は一応手加減できるけど、そいつは出来ないぜー? 死んじまうかもよ?」
ライカンスロープの男も、一緒になって忠告してくる。
まあ確かに細かい手加減などできなさそうだが。
気の利いた返しが思い浮かばなかったので、俺は無視した。
すると、巨人の男は、
「どうなっても知らねーゾ」
と言ってきた。
「まあ別に限界レベル1のゴミがどうなろうと、知ったことではないか」
興味を失ったように、ライカンスロープの男がそう言った。
やっぱすげー下に見られてるのな、限界レベル1ってのは。
ちなみに試合開始前に誰が勝つかを予想する、賭けが始まった。
俺のオッズが凄まじい高さになっている。
ただ俺に賭けている奴が、一応1人はいるみたいだ。
レーニャとメクは、金を持ってないので、もしかしたら賭ける奴1人もいないか? と思っていたが、超大穴狙いの奴がいたみたいだ。
そして、試合開始を告げるゴングが鳴って、戦いがスタートした。
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