3.死体吸収発動

2020年12月20日

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 俺は穴に飛び込んだ。

「イダッ!」

 あまり深い穴ではなかったが、怪我をしている足から落ちたので、激痛が走り、痛みでしばらく悶える。

 酷い臭いだ。吐き気が込み上げてくる。なんとか堪える。

 辺りは暗くて何も見えない。少しすると目が慣れて、うっすらとだが見えるようになる。

 穴の下はあまり広い空間ではなかった。
 そして、深くもないため、もしかしたらあのゴブリン達が追ってくるかも?

 進める場所がないか、辺りを調べ回る。
 すると、

「うわっ!」

 あるものを発見して、驚いて俺は思わず声を上げた。

 あるものとは死体だ。
 死んで腐敗している、巨大な蛇の頭があった。

 恐らく顔だけじゃなく、胴体もあるだろうが、俺からは頭しか見えない。

 この巨大な蛇の死骸が、腐敗臭を放っていたのか。

 ばっちいので、あまり近づかないようにする。

 蛇の死骸以外何もない。

 こうなれば、ゴブリンたちが入ってこないことを祈るしかない……

 しかし、頭上を見てみると、ゴブリンたちが穴の中を覗き込んでいるのが見える。

 降りるかどうか迷っているかもしれないが、降りてこられれば俺は一巻の終わりだ。

 俺は降りてくるな! と心の中で祈る。

 しかし、俺の祈りは通じず、ゴブリンは何か紐のようなものを穴に垂らして、それを伝い降りて来ようとする。

 クソ、どうする!?

 ……そうだ!

 俺はここで先ほど見たステータスを思い出した。

 死体吸収。確か俺はそんなスキルを持っていたはず。

 そのスキルを使いこの蛇の死骸を吸収したら、何かいいことが起こるかもしれない。

 何も起きなくても、蛇の死骸が消えることで、逃げ道が出来る可能性もある。

 吸収できたのは少しだけ、ってなるかもしれない。
 それに、こんな腐敗した死骸を吸収するのは気が引けるし、下手したら死ぬ危険性もあるが、こうなったらやるしかない。

 つか、どうやって吸収するんだ?
 触って吸収しろって、念じればいいのかな。

 俺は死体に右手で触る。

 触った瞬間、念じていないのだが、頭の中に、

『死体を吸収しますか?』

 と機械的な声が聞こえてきた。

 念じる必要はないのね。
 俺は頭の中で、「吸収する」と返答した。

 すると、俺の手のひらから渦巻きのようなものが発生。
 蛇の死体がその渦に飲み込まれる。

 数秒経って全部飲み込まれた。

 飲み込まれた直後、

『アースドラゴンの吸収に成功。
 HP 100上昇、MP50上昇、攻撃力50上昇、防御力100上昇、速さ30上昇。スキルポイント10獲得。
 スキル【鑑定Lv1】獲得。スキル【隕石(メテオ)Lv3】獲得』

 機械音が頭の中に響いてきた。

 頭の中に響いた声に俺は驚愕する。

 なんかめっちゃ上がった!?
 スキルも獲得したって言われたし……
 あと、アースドラゴンっていうのか。ドラゴンだったのねあいつ。

 この【死体吸収】ってスキル、普通にすげー使える能力じゃね?

 そうなると、あのミームって女が言った事は、なんだったのかって話だけど。

 俺だけ特別なのか。もしくは召喚に巻き込まれた者は、違うのか。
 こんな事は初めてって言ってたから、後者かもな。

 あれ? そういえば足が痛くない。
 さっきまで体の節々が痛かったんだが、どこも痛くないぞ。

 HPを回復する効果もあるのか。

 考えてる間に、ゴブリンが一体だけロープを伝って下りてきた。

 狭い空間に俺とゴブリンだけがいる状態。

 だいぶ焦る。心臓の鼓動がバクバク言ってる。

 だ、だ、大丈夫だ。
 俺はかなり強化されたはず。
 たぶんこいつらはゴブリンで、弱いだろうから大丈夫だ。

 そう頭では思うが、体は震えたまま。

 俺は基本ビビリな男なのだ。
 あの時、不良に立ち向かったのは、かなりイレギュラーな事なのだったのだ。

 震えている俺にゴブリンが持っていた棍棒を振りかぶって、振り下ろしてくる。

 や、やばっ!

 俺は頭だけは守ろうと、手で頭をかばう。
 そして、棍棒が俺の手に直撃する……が。

 あれ? まったく痛くねぇ。

 棍棒は木っ端微塵に粉砕される。

 これはあれか? 何か防御力がやたら上がってたけど、そのおかげか?

 ゴブリンは棍棒が木っ端微塵になり、唖然とした表情で俺を見ている。

 攻撃が効かないんなら恐くねーな。

 どうやって攻撃するか。
 さっき、【隕石】ってスキルを獲得したけど、こんな狭い場所で使うようなもんでもなさげだし、ここは普通に殴って攻撃するか。

 俺はゴブリンの顔を殴る。

 すると、グシャ! と、おかしな音がなる。

 見ると、ゴブリンの頭部がトマトのように粉砕され、真っ赤な血が周りを染め上げる。

「うげ……」

 めっちゃエグイ光景に俺は思わず顔をしかめる。
 グロいのはあんま得意じゃないし、一応俺を狙ってきていたやつとはいえ、殺したのはあまり気分がよくない。

 でも、これかなり強くなっているな……

 ステータスの基準が分からないからなんともいえないが、殴っただけで頭を粉砕するとは。

 あの蛇っぽいのドラゴンだったみたいだし、かなり強いはずだ。
 そのかなり強いやつを吸収した俺は、かなり強化されたのだろう。

 とにかく、この殺したゴブリンも吸収しよう。
 俺は、ゴブリンの死体に手をあて【死体吸収】を使う。

 吸い込まれ行く。どうやら飛び散った肉片やら、血やらも一緒に吸収されるようだ。
 俺が浴びていた返り血も吸収されて、綺麗になる。

 HP5上昇、MP1上昇、攻撃力1上昇、防御力1上昇、速度1上昇、スキルポイント1獲得

 さっきのドラゴンと比べて全然、上がんないな。
 やっぱ強いのを吸収すると、得れる能力が変わるのか。
 スキルも獲得できなかったし。

 とりあえず、上にあがろう。
 ほかのゴブリン共はどうしようか?

 殺しにはやはり抵抗があるが、このスキルを活かすには殺す必要がある。
 やるしかないな……

 俺は頭上を見る。

 なんとなく感覚で分かるのだが、この程度の高さならジャンプすれば上がれると思う。
 いや、浅いといっても普通の人間ならジャンプで上がれるような高さではないんだが、今の強化された俺ならいける気がするのだ。

 俺は、垂直に思いっきりジャンプ。

 何かやたら跳んだ。結構余計に跳んでしまっている。

 ジャンプ力なんてステータスはなかったけど、たぶんステータスが上がると共に身体能力も上がっているんだろう。

 俺は地面に着地。
 上で待っていたゴブリンたちは、俺の登場に驚いている。

 数は全部で3体。

 今回はさっき使わなかったけど、スキルを使ってみる。
 そういえば【鑑定】のスキルを獲得したので、一回使ってみよう。

 どうやって使うんだろう? 
 とりあえず俺は一体のゴブリンを見ながら、「鑑定」と言ってみた。

 すると、見ていたゴブリンの頭上に、

『ゴブリン♂ Lv.7/19』

 そう文字が表示される。

 表示されるのはレベルと性別、名前だけ。
 ステータスは見れないみたいだ。
 こいつはゴブリンで間違いないみたいだな。

 そういえば鑑定でレベル見れるけど、俺は魔法を使ってレベル調べられたよな。
 鑑定で調べればよかったのに、何か理由があるのか?
 まあいいか。

 鑑定しているあいだにゴブリン共が攻撃してきたが、まったくの無傷。
 それでも、ゴブリン共は諦めず攻撃してくる。

 よし、次は【隕石メテオ】を試してみよう。

 すげー破壊力がありそうなスキルだ。
 下手したら俺も巻き込まれかねない。

 俺は少しゴブリンたちから距離を取る。
 速さが上がっていたので、簡単に距離を取れた。

 そして、ゴブリンたちがいるところ辺りに落ちろ、と念じながら、俺は「隕石メテオ」と言った。

 すると、ゴブリンたちの頭上から岩が落下してくる。
 俺が想像していたほど大きな岩ではなかった。これじゃあ隕石ではなく、ただの落石だ。スキルレベルが上がったら、ちゃんとした隕石になるのか?

 まあ、それでもそれなりに大きな岩ではある。
 岩はちゃんとゴブリンたちに落ちてきて、ぐしゃ! とすべてのゴブリンをぶっ潰した。

 岩は消えることなく、その場に残る。

 血やら肉片やらが地面に飛び散る。中々エグイ光景だ。
 俺は岩をどかして、ゴブリンたちを吸収。

 HP15上昇、MP3上昇、攻撃力3上昇、防御力3上昇、速度3上昇、スキルポイント3獲得。

 さっきのゴブリンと全員一緒だった。スキルもなし。

 その後、俺は自分のステータスを確認してみる。

 名前  テツヤ・タカハシ
 年齢  25
 レベル 1/1
 HP   140/140
 MP   47/57
 攻撃力 57
 防御力 107
 速さ  37
 スキルポイント 14
 スキル【死体吸収】【鑑定Lv1】【隕石メテオLv3】
 耐性  無 

 レベルは1のままだが、かなり強くなった。
 MPを10消費しているが、これは隕石メテオを使用したからか。
 死体吸収……かなり使えるぞ。

 難点として、生物を殺さなければ絶対に強くはなれないということである。

 殺すのにはやはり抵抗を覚える。
 ただ、今回のゴブリンのように俺を襲ってくるものは、まだ躊躇なく殺せるようだ。

 信用の出来るものなど誰一人としていないこの異世界で、生き残るには強さこそが重要。
 これから、強くなるには、生物を殺して殺して殺しまくる必要があるようだ。

 やってやろうじゃねーか。

 絶対に強くなって、この世界を生き残って、俺を廃棄しやがったあいつらを見返してやる。

 俺はそう心に誓い歩き出した。

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