第二十四話 閉じ込められる
「アタシの能力を自力で調べ上げるんなんて……本当に凄い。きっと普通の人に比べると、桁外れに頭がいいんでしょうね」
素直に感心したように、マナは呟いた。
目隠しされた状態では、これで好感度が上がったのか分からない。
相手の反応で判断するしかないが、そこまで会話する能力が高いというわけではないので、難しい判断をする必要がある。
何とか表情に出さないようにしていたが、心中焦りと不安があった。
「桁外れに頭がいい……聞いたかお主たち。この童、わしの凄さが分かるようじゃな」
思ったより反応が薄いので、失敗したかとマナは思う。
しかし、ケルンのテンションは徐々に上がっていった。
「この国の者どもは、武勇優れた者を評価し、頭脳はそこまで評価されん傾向にある。非常に愚かな事じゃ。マナフォース姫は、優れた感覚を持っているようじゃな。はっはっは、この年で見事な物じゃ」
上機嫌に笑いながら、ケルンはそう言った。
(好感度見えないけど、これたぶん上がってるよね? 案外分かりやすい反応してくれるんだね。頭の良さを評価されることが少ないから、そこを褒めてあげれば喜ぶのかな?)
この方法は効果的であると感じたマナは、もう一度頭がいいと褒めてみる。
「ケルンさんほど、頭が良ければアタシの力なんてなくても、大陸を統一できると思うよ」
「ほう? それは一理あるが……まあ、お主の力があった方がその時期は早まるじゃろう」
大陸制覇も自分の力だけで出来ると思っているとは、想像以上の自信家だなとマナは思う。
「それで、わしに協力したいと思うか?」
「はい、ケルンさんほどの天才が大陸を統べれば、きっとすべての問題が解決すると思うよ。アタシがそれに力を貸せるなんて光栄だなぁ」
「お主もそう思うか……今の世の中間違っておる。喧嘩などせず平和に暮らせばよいのに、少しの土地を巡って、血を大量に流しておる。命を無駄にしておるのじゃ。全く由々しき事態である」
どんな表情で話をしているのか分からないが、口調は熱く真剣に語っていた。
頭が良く、策略を立ててるという事で、悪党なのかもしれないとマナは思っていたが、根は良い人なのかもしれないと思った。そんな人をこれから騙して魅了しようとしていることに、罪悪感を感じた。
「お主が力を貸してくれるというは、本当に良きことじゃ。これからは共に力を合わせて、大陸を良き方向に導こうではないか」
「はい、ですが、この目隠しは出来れば取ってほしいの。アタシのスキルは、任意で発動できるの。ケルンさんには絶対に使わないって約束するから」
ケルンが現状どれくらいの好感度があるのか調べるために、そうお願いした。
先ほどまで褒めたのが効果的ならば、好感度が上がり自分を信頼してるはずなので、この申し出を飲むはずである。
「分かった。お主は信頼できるから、外してやろう」
その返答を聞き、マナは褒めたのはやはり効果的だったと、少しほっとする。
「外すの……」
ケルンは命令しようとした、その寸前で止める。
「待て……おかしい……お主とはさっき会ったばかりだ……だが、なぜかわしは信頼してもいいと思っている……? まさか!!」
息をのむケルン。
「い、今すぐそいつを牢に戻せ! そいつのスキルの予想が外れておったようだ!」
「え、えー!?」
安心したのも束の間、牢に戻すよう命令があり、マナは驚く。
(き、気づかれた!? 牢に閉じ込めろって、多分まだまだ好感度の上がり方が足りてないんだ! こ、こんなことがあるなんて!)
自分のスキルがある程度知られた状態では、途中で気づかれて失敗するという可能性を、こうなって初めてマナは思い知った。
兵士に連れ去られながら、これは大変な事になったとマナは顔を青くしていた。
〇
「くっ……このわしが予想を外すとは……」
マナを牢に閉じ込めるよう命令した後、ケルンはかなり悔しがる。マナのスキルの正体に関しては、彼女は絶対の自信を持っていた。
「これからどういたしまししょう」
ケルンの右隣りには、サイマスという二対四枚の翼を持つ男の家臣がおり、その者が質問した。
自分と同じく頭脳に優れたものをケルンは良く取り立ており、サイマスは頭も優れおり尚且つ戦闘力も高い。
まさしく文武両道で、ケルンの家臣団の中では最強と言える存在だ。
「見るのを防いでも無意味となると、耳を塞がねばならんが……流石に会話が出来ないのでは、命令も出来んだろう。筆談は可能……という確証もないな……まずはあのスキルについて調べるのが先決じゃな」
「姫は、ケルン様を褒めておりましたし、そこに何かヒントがあるかもしれませんね」
「そうじゃな……だが、今は気にかかることがある」
「何でしょう」
ケルンは真剣な表情で、
「わしが閉じ込めろと命令した牢じゃが……あそこはマナフォース姫には過酷すぎる場所ではないか?」
そう言った。サイマスはキョトンとした表情になる。
「へ?」
「だってそうじゃろ、あんな暗くてじめじめして、石の床でまともなトイレもなくて、飯もまずい。犬小屋にも劣る場所じゃ! そ、そんな場所に姫を置いてはおけん! 今すぐいい部屋を用意して、姫をそこに移すのじゃ!」
「お、お待ちください! それは今重要じゃないでしょ! 食事を与えてれば、死ぬことはないでしょうし、環境が悪いところに置けば、我慢できず自分からスキルの説明をするかもしれません」
「そ、そんなひどい事を姫には出来ん!」
「ちょ、ちょっと待ってください。ケルン様、もしかしてスキルの影響がまだ残っているのではないですか?」
サイマスからの指摘を受けて、ケルンはハッとした。
「た、確かにそうじゃ……姫が酷い目に遭うと思うと……何だかこう……心が痛い……姫には幸せでいてもらいたいと思ってしまっておる……」
「や、やっぱりそれスキルの影響ですよ! 恋する乙女みたいな表情してますよケルン様!」
「な、こ、恋じゃと!? そんなわけあるか! 姫は普通の牢獄へ閉じ込め……」
ケルンは閉じ込めろと言おうとして、途中でやめた。
「やっぱり駄目じゃ! 我慢できん! もっといい部屋を用意してそこに住まわせるのじゃ! 今すぐにやれ!!」
「ケ、ケルン様!」
そこから家臣たちが総出で説得したが、ケルンの考えは変わらず、結局マナのための部屋を用意し、そちらにしばらくの間、閉じ込めることになった。
サイマスらケルンの家臣たちは、マナのスキルは思ったよりやばいのではないかと、思い始めた。
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