第9話 襲来
建築は一通り終わった。終わる頃には夜になっていたので、ペペロン達は寝ることにした。小屋の中には質素な毛布と布団が人数分備わっていた。ノーボ用の布団もあった。それを敷いてペペロン達は寝た。
翌日。
「さて、とにかく拠点レベルをあげたい。そのために、まだまだやるべきことは多くある」
ペペロンは部下を集めて方針を語る。
拠点レベルとは、拠点がどれだけ発展しているのかを示すものである。
この拠点レベルを上げるとさまざまなメリットがある。
建てられる建造物が増える。拠点の知名度が上がり旅人や移住希望者が来やすくなったり、ほかの村や町と交易を結べるようになるなど、いろいろある。
最初は拠点レベル1『集落』だ。これを拠点レベル2の『村』まで上げるにはいくつかの条件を満たす必要がある。
研究所、家の数10軒以上、井戸などの建造物を建築する。
拠点に所属する者が50人以上必要となる。
それ以外にも、魔法を6種類以上使えるようになっている。建築技術7等級以上、農業技術7等級以上などの、技術的な条件もある。
さらに、食料庫に一定上の食料をためる必要もある。
結構面倒くさそうに見えるが、人口以外は割りと簡単に達成できるとペペロンは思っていた。現に建築は家の数以外は現時点で全て条件を満たしている。
「まずエリーには技術研究をしてもらう」
「了解ですー」
基本研究はエリーに任せていた。研究スキルというものがあり、これが高いと研究の速度が高くなるのだが、エリーは研究スキルのレベルがMAXまで上がっていた。
ちなみに現在ある本は、建築技術7等級の書、農業技術7等級の書、ブリザードの魔法書、ライトの魔法書、ボムの魔法書、8等級ゴーレム作成の魔法書、8等級使い魔召喚の魔法書、グロースの魔法書だ。
建築技術、農業技術の書を研究すると、作れる建築物や、育てられる植物が増える。
初期の8等級では作れるものは少ないし、拠点レベルを村に上げるためには7にしなくてはならないので、上げなくてはいけない。
エリーは本を持ち、研究所に入っていった。
「そして、家を10軒以上建てる。それと新しい配下探しも並行して進める」
「配下探しですか……それが一番面倒な所ですわね」
ララが苦い表情をしてそう言った。
人を集めるのが1番面倒くさいというのは事実だ。
拠点がまだ発達しておらず、知名度が低い状態では、配下になってくれと頼んでも中々受け入れられない。物を上げたり、金を上げたりして交渉しないと配下になってくれないので、かなり面倒臭いのだ。
拠点レベルが上がれば、勝手に住民もやってくるが、それまで集めるのがかなり面倒だ。
「さらにグロリアセプテムは、7種族しか配下に出来ないという規定がございます。さらに集めるのは難しくなるでしょうね」
――――え? 今なんて?
ペペロンは思わず素の声を出しそうになったのを、何とか堪える。
(7種族しか配下に出来ないって、不遇7種族のことだよな?)
そう気付いてペペロンは焦る。
確かに不遇7種族での縛りプレイをしてはいたが、現実になってその縛りプレイを続ける気はまったく持ってなかった。
なんせ不遇7種族は弱い。力を入れて育成すれば強くなれるとはいえ、全員を強くするのは無理だし、万全を期すならあらゆる種族を集める必要がある。
仮にその縛りプレイが今でも生きているのなら、廃止しようとペペロンは思うのだが、
「王様が俺たち恵まれない種族を導くために、この規定を作りグロリアセプテムを作ったからなぁ。この規定は絶対に守らないといけないな」
「今更、私達以外の種族を集めるのは嫌ですものね。時間はかかるけど仕方ありませんか」
(……こ、これは!? ただの難易度とスリルを求めてやった縛りプレイを、かなり好意的な見方で捉えられている!?)
どうするかペペロンは考える。果たしてここで、やっぱ全種族仲間にしまーす、と言って果たして受け入れてもらえるだろうか?
――――いや、無理じゃね? ……何か国の根幹に関わる規定になっているみたいだし、下手したら最悪の事態が起こる可能性も……仕方ない……
「そうだな。恵まれない扱いを受けている我々と同じ種族のものたちだけを配下にするのは、絶対に守らなくてはな」
ペペロンは、内心かなり動揺しながらそう言った。これで、グロリアセプテムにはゲーム時代と同じく、不遇7種族しか配下に出来ないという縛りを継続する事になってしまった。
かなりまずい状況になったが、ペペロンは何とか落ち着く。
「では、役割分担を決めよう。新しい配下を探しに行く役目と、拠点に残り家を作る、拠点を防衛する役目の二つに分けたいと思う」
「そうですねー」
「今度はアタシがペペロン様と一緒に行くー!」
部下達と話し合い。ペペロン、ファナシア、ララで配下探しに、ガス、ポチ、ノーボが家造りと防衛、エリーは技術研究をする事に決まった。
そして、ペペロン達が拠点を出て新しい配下を探しに行こうとすると、
「ペペロン様! あちら遠くからこの拠点にやってきている者がいます!」
ララが指をさしながらそう言った。
「なに?」
ペペロンはララが指差した方向を確認する。
すると、武器を持ったむさ苦しい男達30名ほどが、この拠点に向かって来る姿が目に映った。
(あれは、山賊だな)
拠点を作りいろいろ建物を建造すると、山賊やら何やらが襲来してくる事がある。
山賊は雑魚なので怖がる必要はまったく無い。さっさと倒して行くか、とペペロンは軽く考えていたのだが、
(いや、良く見るとあいつら人間だよな? あれ? あいつら撃退するって事は殺さなきゃならないってこと?)
よく考えなくても人殺しである。ゲームで人を殺すのにあまり抵抗を感じないタイプのペペロンだが、現実となると当然違う。
と、思っていたのだが、今から盗賊共を殺す事になりそうだというのに、なぜか抵抗をまるで感じない。別に殺すなら殺してもいいだろうとしか思えない。ペペロンは違和感を覚えてその原因を推測する。
――恐らく、冷静スキルの影響だろう。
マジック&ソードは戦闘面は結構作りこまれており、殺しの経験が少ない状態で敵を殺したり、近くで人を殺されたりすると、恐怖や恐慌などの状態異常にかかったりする。
その状態異常になると、動けなくなったり、意思に反して敵から逃げ出してしまったりする。だいぶ嫌な状態異常だ。
冷静スキルを上げると、人を殺したり近くで人を殺されたりしても、状態異常にかかりにくくなる。
ペペロンの冷静スキルはMAXである50。これくらいあれば300人くらい連続で殺しても、状態異常にかからなくなる。
この冷静スキルの働きで、山賊どもとこれから殺しあうかもしれないというのに、まったく心が冷静さを保ったままなのだろうと思う。
出来れば、ほかの驚く出来事であっても、冷静なままでいられるようにして欲しいとペペロンは思ったが、これが仕様なので仕方ないのである。
「お前らー新しくここに住み始めた奴らだなぁ? ゴミみたいな種族の連中しかいねーのな。本来なら奴隷にしてうっぱらう所だが、特別に毎週1000G払うというのなら、見逃してやろう? どうだ悪くない取引だろう?」
先頭にいる山賊たちのリーダーと思わしき男がそう言ってきた。
「帰れ。今なら見逃してやらんでもない」
ペペロンは淡々とそう言った。
「は? 何て言った? 見逃す? ハハハッハハ! お前さぁ。そんなゴミみたいな種族しかいないのに良くそんな口、俺に聞けたな。もう一度だけチャンスをくれやるよ。毎週1000G払うなら、見逃してやる」
「こちらも、もう一度だけチャンスを与える。今なら見逃してやる」
「……ハハハ、そうかい……ずいぶん死にたいみたいだなぁ。いいぜ、殺してやるよ!」
山賊たちが攻撃してきた。
「撃退するぞ」
「はっ!」「はいさー!」「分かったぜ王様」「了解です!」「行くかー!」
それぞれ返事をする。エリーは研究所でかなり没頭して研究しているため、戦いには参加しない。
(まあ、この程度の敵、エリーの力を借りるまでもないがな)
まず、最初にファナシアとガスが切り込んだ。この2人は部下達の中でも、とりわけ速い。一瞬で距離をつめ、なにが起こっているのかわからないまま、山賊は首を落とされる。
ノーボは魔法を使う。ただのフレイムだが、魔法攻撃力の高いノーボが放つフレイムの威力は凄まじい。山賊の1人に当たった瞬間、消し炭になる。
少し遅れてララが剣を引き抜いた。彼女の装備している剣はシミターと呼ばれている曲がっている剣だ。普通の剣より切れ味が鋭い。華麗な舞を踊るような動きで、ララは盗賊達を次々と切り裂いていく。
ポチは背中から大剣を引き抜く。物凄く重い剣だがポチはそれを片手で軽く持ち、そして片手で豪快に振るった。一度剣を振っただけで、数人の盗賊たちが、一刀両断されていく。
かなり凄惨な光景が目の前で繰り広げられているが、ペペロンはやはり動揺しない。スキルの効果を実感する。
「な、なんだこいつら!? なんだ!?」
山賊のリーダーと思われる男は非常に慌てていた。
完全に格下と思っていた相手があまりにも強くて、現状を正確に認識できていない。
しりもちをつき、ただうろたえながら手下達が殺されていくのを見ているしかない。
ペペロンは剣を抜き山賊のリーダーの後ろに立つ。
「残す言葉は?」
「ひぃい! 助けて!」
ペペロンは一切躊躇せず山賊の首を刎ね飛ばした。
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