20話 売買
タンケスに入ると、ベラムスは住人から視線を集めていた。
原因はベラムスの服装にある。
ゴブリンの村に住んでいるので、当然ベラムスの格好はゴブリンたちと一緒の粗末な服である。
五歳くらいの子供がその服装で歩いているのだから、町の人達もかなり奇妙に思っていた。
ベラムスもゴブリンの村は好きではあるが、この服は元大賢者としてどうなのかと思っていた。
なのでベラムスは、賢者らしい服を買うと決めていた。
まずは魔物を売る必要がある。
住人に魔物から出た素材を買い取ってくれる場所はどこか尋ねる。
魔物の素材の売買は冒険者ギルドが請け負っているらしい。ベラムスは冒険者ギルドの場所を聞いて向かった。
冒険者ギルドに到着し、中に入る。
「ここで、魔物の死体を買い取ってもらえるだろうか?」
「ん? 坊主、魔物持ってきたのか? 死体丸ごと持ってきたのなら、解体料がかかる分、少し安くなるがいいか?」
「構わない」
棘を取ったりするのは面倒だからそのまま持ってきたが、安くなるなら抜いておいた方が良かったかもしれない、ベラムスは少し後悔する。
ミスリルタートル四体とスパイクスネーク三体を降ろして、見せる。
「ちょっと待て。お前さんどういう方法で運んできとるんだ」
「ん? 魔法糸(マジック・スレッド)という魔法だが。あなたも知らないのか?」
「聞いたことねぇなぁ……まあ、何でもいいか。それで、えーとこの魔物は……」
何故こんなにも魔法糸の知名度が低いのか、ベラムスは引っ掛かりを覚えたが、深くは考えなかった。
そして、男が魔物を見る。
すると、
「これは!?」
受け付けの男が大袈裟に驚いた。
「ミスリルタートルと、スパイクスネークだと……? しかも四体と三体……これ、お前さんが倒してきたのか!?」
「いや、人が倒したのを運んできた」
「そうだよな。自分で倒したわけないか……いや、しかし、これは凄いぞ」
「高いのか?」
「ああ、一万リンにもなるだろう……家が一軒建てれるぞ」
「一万リン?」
ベラムスはリンという通貨の単位を聞き覚えがなかった。
前世ではゼルという単位が用いられていた。
この時代では通貨の単位が何らかの理由で変わったのだろうか。
受け付けの男が、家が一軒建つと言ったので、だいたいどれくらいかベラムスは理解した。
予想の十倍はある。これだけあれば、もう一度、魔物を狩りに行かないですむだろう。
「しかし、それだけの金額払えるのか?」
「冒険者ギルドを甘く見てもらっちゃ困る。1万リンくらいなら問題ない」
男は受け付けの奥のほうに一度引っ込んで行って、しばらくしたら戻ってきた。
大きい袋を手に持っている。中には金が入っているようだ。
「ほら、1万リンだ」
ベラムスは1万リンを受け取る。
かなり重い。
金も同じように魔法糸で浮かばせて運び、冒険者ギルドを出た。
今回ベラムスが買うものは、衣服、武器、それから作物の種だ。
農地を拡大しようと思っているが、メルーンだけでは物足りない。
ほかの作物も育てたいと思っていた。
大量に買うことになるため、まず大きな木箱を三つ買った。
この箱に入れたら、より運びやすくなるだろう。
最初にベラムスは服を買いに行く。
まずは自分用の服と靴を買う。
特に特徴のない服とズボンと靴、それから魔法使いが着るようなローブを購入して着た。
これで結構賢者らしい格好にはなると思ったが、ローブが大きすぎてだぼだぼだ。
これ以下のサイズはないらしく、成長するのを待つしかない。
ゴブリンたちの衣装も買う。
必要な量はかなり多いため、一度ですべてを買って運ぶのは不可能だ。
魔法糸の魔法も無限に浮かび上がらせることはできない。限度がある。
何度か往復する必要があった。
なので今回は絶対に必要なものを買つもりだ。
衣装に関して、実はあまりゴブリンたちは不満に思って無いようではある。
今は季節的に暑いので特に不便はないだろう。
ただ、冬になるとかなり寒くなるので、冬用の服。
それと靴はきちんと買って行ったほうがいい。
普通の服や防具もいくつか買った。
次に武器も買いに行く。
タンケスにはあまり質のいい武器はないらしく、微妙な武器しか手に入らなかった。
買ったのは剣を二十本と弓を二十張、矢を多数。
そして種を買う。
とりあえず、かぼちゃ、トマト、ニンジン、キャベツ、麦、などなどいろいろな作物の種を買った。
季節に応じて育てていければ良いと思っている。
ひとしきり買って、現時点の魔力で運べる限界すれすれ量の荷物を箱につめた。
日が暮れたのでベラムスは一晩泊まることにした。
金稼ぎが簡単に終わったので、思ったより早く帰れる。
翌日、ベラムスは荷物を持ってゴブリンの村に帰った。