8話 尾行してオークの拠点に
ベラムスが、オークを尾行して数時間経過。
前世のベラムスは若いころ従軍経験があり、そこで尾行などはよくやらされた。
体も小さいため見つかりにくさは上がっており、オークたちに気づかれず尾行することができた。
そして、敵の拠点、キング・ライドスがいると思われる場所に到着する。
ベラムスの予想よりだいぶ早く到着した。
拠点は木でできた砦になっている。
それなりにオークがいるようだ。
オークの数は三十体くらいとそこそこ多いうえ、まだ保有魔力増加のための練習は万全でないが、あの程度のオークなら何体いても物の数ではない、とベラムスは判断した。
しかし、実力が未知数である、キング・ライドスのほうは若干気になっていた。
オークではあるだろうが、進化を重ねたオークはかなり強い。
可能性はかなり低いが、最終形態まで進化を遂げたオークかもしれない。
そうなると、勝てない可能性もある。
だが、オークたちがゴブリンの村まで攻めてくる可能性がある以上、ベラムスに引くという選択肢はない。
ベラムスはこっそり砦に近づいた。
そもそもキング・ライドスは攻める気があるのかが気になるので、魔法で聴力と集中力を高めて砦内部のやりとりを聞くことにした。
キング・ライドスがどのような性格をしているのかは不明だ。
もしかしたら、たいしてうまみもないのに、強い敵と戦わなければならないのは合理的ではない、と考えゴブリンの村を放っておくと判断する可能性もある。攻めて来ることがないなら、わざわざ戦う必要も無い。
ベラムスは、見張りに見つからないよう、砦に近づき、聴力と集中力を高める魔法を使って、内部のやりとりを聞き始めた。
「ライドス様!」
先ほどゴブリンの村に来ていたオークの声だ。
「戻ってきたカ、お前ら。ゴブリン共から食料を巻き上げてきたカ?」
低く、威厳のある声だ。
その声を聞いただけで、一年やそこらの若いボスではなく、長年ボスを務めているのだろうと想像できる。
「イヤ……それガ……村にニンゲンがイテ……」
「ゴブリンの村にニンゲンガ? ナゼ?」
「わかんねーですけド、ナゼかいたんですヨ。そいつに邪魔されテ、巻き上げられませんでしタ!」
「ナニィ……?」
一気に空気がピリピリしたものに変わる。
誰が聞いても激怒しているとわかるような声色だ。
「ナゼニンゲンごときに邪魔をされタ?」
「イ、イヤ……そのニンゲン小さいけド、めちゃくちゃ強くテ……でも、ライドス様ならぶっ殺せるっテ、思ったかラ……」
「負けテ、オレサマに助けを求めて逃げて来たってわけカ?」
「ウ……そうでス……」
「………………テメェらよく帰ってこれたナ」
「ひぃ」
「そいつらをしばらく牢屋に閉じ込めとケ。あとでしっかりと"教育"してやル」
「きょ、教育!? 待ってくださイ! それだけハ!」
「本当に強かったんデス!」
「勘弁してくださイ!」
よっぽど怖いのか、オークたちは必死に懇願する。
しかし、受け入れられなかったのか、ずるずると引きずられていく音が聞こえてきた。
「フン。ゴブリンとニンゲンカ。どちらも下等生物。下等生物になめられるのガ、オレサマはいちばん嫌いダ。じきじきに出向いて思い知らせてやるとしよウ。出発の用意をしロ」
キング・ライドスがそういった瞬間、慌しく準備を始める音が聞こえてきた。
人間やゴブリンをなめてたり、オークたちを教育するとかいって牢に放り込んだりしたため、再び部下に任せて自分は高見の見物を決め込むのだとベラムスは予想したが、どうやら来るみたいだ。
ベラムスは少し砦から離れて、キング・ライドスが出てくるのを待つ。
砦から出てきてから倒したほうがいい。
キング・ライドスがオークの最終進化形態である、"ラストドラゴンオーク"、"ダイアモンドオーク"、"エンペラーオーク"、"マジックマスターオーク"のどれかであった場合、正面からぶつかって倒すのはやめ、奇襲で倒すべきだと、ベラムスは決める。
恐らくキング・ライドスと呼ばれていることから、キングオークであるとベラムスは推測していた。
キングオークはエンペラーオークになる一歩手前の形態だ。
強いのだが今の実力で十分倒せるだろうと、ベラムスは想定していた。
そして、砦からキング・ライドスが出てくる。
ベラムスは注意深く観察する。
出てきたのは……
「あれは、ジェネラルオークじゃないか」
少し肩透かしを食らった気分で呟いた。
ジェネラルオークとはキングオークの一歩手前の形態である。
――――これなら簡単に倒せるだろう。
ベラムスはそう判断し、砦から出てきたキング・ライドスのまえに姿を現した。